ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

日本結晶学会誌59,210-222(2017)対称性と群論(4)点群,空間群の部分群ロレーヌ大学結晶学教室ネスポロマッシモMassimo NESPOLO: Subgroups of Point and Space Groupsこれまでの連載企画:「対称性と群論」1)-3)で,ヘルマン・モーガン記号(国際記号),空間群の分類およびミラー指数を解読した.今回は部分群を紹介する.部分群の理解は,結晶構造の類似性や変化に関して幅広い応用のある概念だが,それを説明するためにまずはいくつかの基礎概念を導入する必要がある.Gをある群だとする.Gの元(element)*1の数を位数(order)といい,|G|という記号で示す.点群は有限群であるのに対して,空間群は無限群である.なぜならば,無限個の並進操作を含むからである.Gの一部の元を選択し,これらの元がまた群を形成するならHはGの部分群である.そして,GとHの位数の比を|G|/|H|と表示し,これを指数(index)という.対称操作の行列表現を簡単に表示するためにサイズ記号(Seitz symbol)が便利である.サイズ記号{W|w}は,線型部分Wと並進部分wでできている.例えば,0,y,?を通る[010]方向に平行な2回螺旋操作は,行列・ベクトルペアまたはサイズ記号で以下のとおり示すことができる.? 1 0 0 0 ???0 1 0 1?2 ?; 2010| 0? 0 0 1 1?2??{ }1 21 2以下,サイズ記号を利用する.1.点群の部分群.剰余類,部分群の分類Gをある点群そしてHをその部分群とし,GをHを用いて分割すると|G|/|H|個の集合が得られる.その1つはHそのもので,残りの(|G|/|H|-1)個の集合は群ではな*1著者によって群のelementは「元」か「要素」と呼ばれている.結晶学では「要素」はすでに別の意味(幾何的要素,対称要素:文献1)を参照)で使われている.混乱を避けるためにここでは「元」を利用する.*2「位数」という語彙は群の元の数を表す.群を形成しない集合の場合は「位数」を利用せず,「基数」という.英語では剰余類の基数は「length of the coset」という表現が一般に利用されている.い.なぜならば,1)恒等操作はHにしか属しない;2)H以外の集合は内部算法が成り立たないからである.各集合の元の数は|H|と同じで,基数(cardinality)という.*2そしてこれら集合は剰余類(傍系,coset)と呼称する.具体的な例を示そう.4mmの点群の位数は8であり,以下の元で形成されている.4mm={1,4 1[001],4 2[001]=2[001],4 3[001]=4 -1[001],m[100],m[010],m[110],m[110]}.そして点群4mmに関しては,指数2(位数4)の部分群が3つ存在する.1{1,4 1[001],4 2[001]=2[001],4 3[001]=4 -1[001]}=42{1,4 2[001]=2[001],m[100],m[010]}=2mm.3{1,4 2[001]=2[001],m[110],m[110]}=2.mm2と3は同様な対称操作で形成されているが,一部の幾何的要素は一致しない.4mmから2mmに対称性が低下すると,格子の対称方向も5本(正方晶系)から3本(直方(斜方)晶系)となる.しかし,(hk0)面内に残存する対称方向は正方の〈100〉方向か正方の〈110〉の2つの可能性があるため,直方(斜方)の軸を利用し点群のヘルマン・モーガン記号を書き直すと,対称性の低下による残存する鏡映面を同定しづらくなる.そのために,ここでは軸の変換をせずに,残存しない鏡映面をドット(.)で表示し,2mm.と2.mmという記号を利用する.この2つの点群は同一ではなく,同型群(isomorphic group)であり,同じ点群タイプに属する.演習問題1 422という点群から指数2の部分群を導き,点群タイプで分類せよ.さらに,指数4(位数2)の部分群は5つ存在する.12={1,4 2[001]=2[001]},2 .m.={1,m[100]},3.m.={1,m[010]},4 ..m={1,m[110]},5 ..m={1,m[110]}.演習問題の解答はJ-Stageに付録として掲載してあります.210日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)