ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

山下恵太郎ログラムが公開されていないケースが多いようである.2.KAMOを用いたデータ処理多数のsmall-wedgeデータを手動で処理するのは困難である.個別のデータ処理は機械的に可能でも,新規構造の場合には空間群の決定にも困難が伴うし,さらにはindexing ambiguityの解消が必要になる場合(その必要性の判断も含めて)もあり,マージするデータの取捨選択やスケーリングのパラメータの調整など検討する項目も多数ある.1種類くらいならば手動でなんとか頑張れても,複数のサンプルを相手にするのは現実的ではない.ソフトウェアKAMOは,蓄積されたデータ処理のノウハウを実装し複数データの処理を効率化するために開発された.KAMOを用いることで,ほぼ自動的に充分な質のマージ結果が得られ,パラメータの検討が必要な場合も簡便に行えるようになっている.KAMOのソースコードはNew BSD License下でGitHubで入手可能であり(https://github.com/keitaroyam/yamtbx),ドキュメント6)も公開されている.SPring-8のデータに限らず処理可能だが,特殊なジオメトリの場合には自動認識されない場合があるため,うまく動作しない場合は著者までご連絡頂きたい.なお,上記ドキュメントにて,KAMOを利用した研究成果へのリンクと,論文著者らによって生データが公開された場合には結果の再現方法も併せて記述している.KAMOのワークフローを図2に示した.以下,簡単に流れを説明する.個別データセットはXDS 7)またはDIALS 8)によって処理される.デフォルトはXDSであり,著者の経験上,少なくとも執筆当時においてはこの種のデータはXDSのほうが適しているようである.全イメージを用いたピークサーチ・指数付け・積分処理の後,マージ処理用に非経験的補正のみ行った強度データファイルを作成する.個別データセットの処理が完了したら,データセット間で格子定数の比較が行われる.格子定数が類似したもの同士がグループ化され,平均格子定数に基づいて可能な空間群対称がリストアップされる.正しい対称性は,POINTLESS 9)がそれと判定した回数(頻度)が高いものを選択するか,空間群判定機能を利用して決定する.選択された対称性が最大の対称性(すなわち格子の対称性)よりも低い場合は,いわゆるindexing ambiguityの解消が必要である.同型リファレンスデータが存在する場合はそれを用いて,存在しない場合はSFXデータのために開発されたselective breeding10法)を用いて解消を行う.スケール・マージを行う前に,相関係数あるいは前述のBLENDを用いた格子定数の類似性による階層的クラスタリングによって,対象データを同型なものに分類することを試みる.クラスタごとのスケール・マージはXSCALE 7)を用いて行われる.3ステップに分けて行われ,まずすべてをマージした後に異常イメージを除去し,次に異常データセットを除去したものを最終結果とする.最後にレポートファイルが出力され,クラスタリングの結果や各クラスタの統計値を視覚的に確認できる.基本的にはデフォルトのパラメータで処理し,CC 1/2が最大の結果を選択すれば問題ない結果が得られるはずである.最良の結果を得るにはまだ細かな調整が必要な場合があるが,今後改良していきたい.Small-wedgeデータ収集・処理に関して国内外の状況,およびKAMOを用いた処理のスキームについて解説を行った.紙面の都合,詳細は省略したので,興味のある方はドキュメント6)を参照されたい.またKAMOは現在も利便性向上や高度化を継続中であり,リクエストも随時受付中である.KAMOはZOOによる自動データ収集と併せてすでにBL32XUにおける構造解析に利用されており11-14),今後も多くの方々の助けになれば幸いである.文献図2 KAMOのワークフロー.(The workflow of KAMO).1)I. Schlichting: IUCrJ 2, 246(2015).2)D. Flot, et al.: J. Sync. Rad. 17, 107(2010).3)V. Cherezov, et al.: Science 318, 1258(2007).4)J. Foadi, et al.: Acta Cryst. D 69, 1617(2013).5)U. Zander, et al.: Acta Cryst. D 71, 2328(2015).6)K. Yamashita,(2015?2017). https://github.com/keitaroyam/yamtbx/blob/master/doc/kamo-ja.md7)W. Kabsch: Acta Cryst. D 66, 125(2010).8)D. G. Waterman, et al.: CCP4 Newslett. Prot. Cryst. 49, 13(2013).9)P. R. Evans: Acta Cryst. D 67, 282(2011).10)W. Kabsch: Acta Cryst. D 70, 2204(2014).11)S. Abe, et al.: ACS Nano 11, 2410(2017).12)R. Taniguchi, et al.: Nature 548, 356(2017).13)W. Shihoya, et al.: Nat. Struct. Mol. Biol. 24, 758(2017).14)Y. Lee, et al.: Nat. Plants 3, 825(2017).15)M. Yamamoto, et al.: IUCrJ 4(2017).208日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)