ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

日本結晶学会誌59,207-208(2017)最近の研究動向微小結晶のための自動データ処理システムKAMO国立研究開発法人理化学研究所放射光科学総合研究センター山下恵太郎Keitaro YAMASHITA: KAMO: Automated Data Processing System for Microcrystals1.多数の結晶を用いた戦略生体高分子の結晶構造決定において,現在では1つの結晶から回折強度データを取りきってしまうことが一般的だが,かつては室温環境での測定による深刻な放射線損傷のため多数の結晶を用いる方法が一般的だった.クライオ法の導入によって放射線損傷の問題は大幅に軽減されたが,構造解析対象の結晶サイズが微小化するにつれ,再び放射線損傷の問題は大きくなった.X線照射による単位質量当たりの許容吸収エネルギー量は決まっているため,微小結晶においては照射可能な光子数が大きく制限されてしまうためである.結局,数~10μm角程度の微小結晶から高分解能なデータを得るには,1結晶当たりの収集角度範囲か角度当たりの入射強度のどちらかを犠牲にする必要があり,いずれにせよ高分解能かつ完全なデータを得るには多数の結晶が必要になる.近年利用可能になったX線自由電子レーザーによるシリアルフェムト秒結晶学(SFX)は,多数の微小結晶を用いたデータ収集の有力な選択肢の1つであるが1),1結晶1照射の静止写真しか得られないため非常に多くの結晶を必要とする.さまざまな技術改良に伴い必要な試料の量も低減されてきたが,それでもビームタイムは非常に限られており,ルーチン的な使用には遠いのが現状である.本稿で扱うsmall-wedgeデータ収集,すなわち多数の結晶を用いて1結晶当たり5~10°程度ずつ振動写真データを収集するスキーム(図1)はシリアル結晶学と通常のデータ収集との中間的存在であり,微小結晶から高分解能回折強度データを収集する有力な方法の1つである.1.1 SPring-8 BL32XUにおける自動化2010年より供用されているSPring-8 BL32XUでは,最小1×1μm 2において2×10 12 photons/sの微小かつ高フラックスなX線ビームを利用できる.初期の頃は細長い結晶を対象にすることが多く,横幅1μmのラインフォーカスビームを結晶の端から端へ走査しながら照射するヘ2リカルデータ収集)が一般的だったが,構造解析対象がますます高難度化し,10μm角程度あるいはそれ以下のサイズの微小結晶しか得られないケースが増えてきた.そこで全自動データ収集システムZOOが開発され,クライオループ中の複数の微小結晶からsmall-wedgeデータを自動収集することが可能になった.1.2海外の状況マイクロビームを使いsmall-wedgeで複数の結晶からデータを収集するスキームは,すでに多くの事例が見られる.2012年ノーベル化学賞を受賞したKobilkaらの研究の1つであるβ2アドレナリン受容体の高分解能結晶3構造解析)でも,米放射光施設APSのマイクロビームを用いて1結晶当たり10~20°ずつ,40個の結晶を用いてデータ収集が行われた.ほかの事例を含めて眺めてみると,データ処理は手動で行われることが多く,データをマージする前にはBLEND 4)を利用して選別することが多いようだ.BLENDは格子定数をベースに階層的クラスタリングを行うプログラムである.ただし格子定数の一致は同型性の必要条件に過ぎないことには注意がいる.最近,仏ESRFからMeshAndCollect 5)と名付けられた自動データ収集システムも発表された.このようにすでにさまざまな事例が存在しているが,データ処理は多くの場合自動化されていないか,何らかの形でされていてもプ図1多数の微小結晶を用いたsmall-wedgeデータ収集スキーム(Small-wedge data collection from multiple microcrystals).X線を用いた回折スキャン(収集する角度領域は数度程度なので図の方位のみ)によって結晶位置を特定後,個別15にデータを収集,マージ処理を行う.総説)より転載(CC-BY 2.0; https://creativecommons.org/licenses/by/2.0/).日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)207