ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

ページ
14/84

このページは 日本結晶学会誌Vol59No5 の電子ブックに掲載されている14ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No5

塚田真也,藤井康裕のラマン散乱は,モードの振動数や寿命だけでなく,ラマンテンソルの対称性や各テンソル成分の大きさを反映している.そこで現在,単結晶からのラマン散乱を最大限に活用するためのシステムを構築している.特に,光の偏光方向を1/2波長板で回転させて試料を動かさずに散乱配置を変えることで,7)今までは1つのデータしか得られなかったところで散乱配置の異なるたくさんのデータを得ることができるようになった.本稿では,この角度分解偏光ラマン分光で得られた知見を紹介する.図2に常誘電相における角度分解偏光ラマンスペクトルを示す.角度は,入射光の偏光方向と結晶の[001]のなす角を示す.常誘電相における立方晶のBaTiO 3では,対称性によりラマン活性なモードは出現しないと予想されるが,明らかなピークが現れている.この角度依存性とストークス・アンチストークス散乱の強度比から,このラマン散乱は一次の光学過程であると示された.言い換えると,平均構造からずれた不均一性からのラマン散乱を観ている.この角度依存性をいくつかの点群のラ3マンテンソルと比較すると,収束電子回折)や二体相関4関数)を用いた研究で報告されている菱面対称3mの点群でよく説明でき,準弾性散乱がEモードと同様に振る舞い,200 cm-1や500 cm-1のピークがAモードであることがわかった.このラマン散乱は本実験の上限850 Kでも存在し,相転移温度以上において温度上昇とともに準弾性散乱の高さが低くなり,幅が広くなった.準弾性散乱の幅の温度依存性をフィッティングにより求めると,温度に対して線形に変化することがわかり,臨界緩和現象[不均一構造が有する双極子モーメント同士の相関が大きくなり緩和時間がτ=τ0/(T-T0)のように相転移に向かって発散していく]が起こっていることが示唆された.一方,200 cm-1や500 cm-1のピークは温度上昇とともに強度が大きくなり幅が広くなっているが,振動数シフトは変化していないことから,不均一性由来のモードは安定であることがわかった.以上のように,本実験においてBaTiO 3における不均一性の存在を角度分解偏光ラマン分光で示すことができたとともに,秩序-無秩序型の相転移機構で説明できることがわかった.同様のふるまいは,K(Ta xNb 1-x)O3でも観られ,8)PbTiO 3を除いて多くのペロブスカイト型強誘電体に共通の性質であると信じている.また,より複雑な階層構造を有するリラクサー強誘電体においても同ラマン分光法を使った成果が出始めている.9)今回は常誘電相のダイナミクスに話を絞ったが,強誘電相では分域構造が現れ, 10)さらに解釈が複雑になる.さまざまな実験法を駆使して,広く時空間にわたる静的・動的揺らぎを丁寧につなげていく必要があると感じている.(a) VH185Angle ( o )(c)180175Intensity50010501.6 o1630.444.8170-250 0 250 500 750 1000150VH410K100-250 0 250 500 750 1000Frequency shift (cm -1 )quasi-elastic c/d= 0.31VVVH0 50 100 150Angle ( o )40200(b) VV185(d) peak ~500 cm -1謝辞本研究は,米田安宏博士(JAEA)や小島誠治教授(筑波大),秋重幸邦理事(島根大)との共同研究です.また,本研究はJSPS科研費16K04931の助成を受けたものです.解析で参考にした不均一構造は,SPring-8の2016A3620の課題で得た二体相関関数より決定したものです.Angle ( o )文献170-250 0 250 500 750 1000150VV410K1001)M. P. Fontana and M. Lambert: Solid State Commun. 10, 1(1972).2)S. Tsukada, Y. Hiraki, Y. Akishige and S. Kojima: Phys. Rev. B 80,12102(2009).3)津田健治:日本結晶学会誌56, 98(2014).4)米田安宏:セラミックス10, 689(2016).5)H. Takahashi: J. Phys. Soc. Japan 16, 1685(1961).6)R. Comes, M. Lambert and A. Guinier: Solid State Commun. 6, 715(1968).7)藤井康裕ほか:日本結晶学会誌57, 285(2015).8)M. M. Rahaman, T. Imai, T. Sakamoto, S. Tsukada and S. Kojima:Sci. Rep. 6, 23898(2016).9)M.A. Helal, M. Aftabuzzaman, S. Tsukada and S. Kojima: Sci. Rep.7, 44448(2017).10)D. Shimizu, S. Tsukada, M. Matsuura, J. Sakamoto, S. Kojima, K.Namikawa, J. Mizuki and K. Ohwada: Phys. Rev. B 92, 174121(2015).180175Intensity500604020-250 0 250 500 750 1000Frequency shift (cm -1 )01.6 o1630.444.8a/b= 3.6VVVH0 50 100 150Angle ( o )図2(a)直交ニコル(VH)と(b)平行ニコル(VV)における410 Kの角度分解ラマンスペクトル.角度は入射光の偏光方向と立方晶[001]の間を示す.(c)準弾性散乱(d)500 cm-1のラマン散乱の強度の角度依存性.実線は,点群3mのラマンテンソルの対称性と図中のテンソル成分比より予想される角度依存性.((a)(b)Angle-resolved polarizedRamanspectraofBaTiO3at410Kincrossnicol(VH)and Parallel nicol(VV)configurations.(c)(d)Angledependence of quasi-elastic scattering intensity andphonon peak around 500 cm-1.)6040200206日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)