ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

日本結晶学会誌59,205-206(2017)最近の研究動向BaTiO 3における不均一性とダイナミクス島根大学教育学部塚田真也立命館大学理工学部藤井康裕Shinya TSUKADA and Yasuhiro FUJII: Dynamics of Inhomogeneity in BaTiO 3ペロブスカイト型強誘電体が示す強誘電性相転移の機構に再び関心が集まっている.強誘電性相転移とは,秩序変数が自発分極で,その分極揺らぎが相転移に向かって発散して格子が不安定になる相転移を指す.優れた電場応答を示す強誘電体は,誘電率を利用したコンデンサーや,圧電定数を利用したピエゾ素子・トランスデューサ・ソナー素子として広く応用されている.近年では,マイクロマシン技術やワイヤレス通信技術で注目を集めている.コンデンサー材料として最も典型的な強誘電体であるチタン酸バリウム(BaTiO 3)の誘電率を図1aに示す.強誘電性相転移温度(キュリー温度:TC)で分極揺らぎの大きさを示す誘電率が10,000にも及ぶ極大値を示している.さまざまな巨視的な物性実験より,常誘電相では立方晶(空間群Pm3m),強誘電相では正方晶(空間群P4mm)をとることがわかっているが,微視的な描像において議論が分かれている.強誘電性相転移は,「秩序-無秩序型」と「変位型」という2つの機構で説明されてきた.秩序-無秩序型は,強誘電体を構成する分子が永久双極子モーメントをもち,常誘電相では無秩序に配向して巨視的な分極をもたないのに対し,強誘電相では永久双極子モーメントが統計的に秩序化して巨視的な分極を発現する機構を指す.変位型は,ある一様な低振動数横波光学モードの振動数がT Cに近付くにつれて低くなり,T Cで凍結することにより原子変位が固定されて対称性が低下することで自発分極を発現する機構を指す.BaTiO 3は,常誘電相では図1bのように単位格子が規則正しく並んでおり,矢印のような変位パターンのモードが凍結した結果,<100>方向に分極する変位型の強誘電性相転移をすると考えられてきた.しかし,秩序-無秩序型を示すような実験結果も数多く報告されており,議論は平行線をたどっている.秩序-無秩序型を示す実験結果として,例えば,立方晶で1禁制のはずのラマン散乱が観測されている.1)2弾性定数が一定のはずなのに,TCに近付くにつれて小さくなる.2)ことが挙げら3れる.近年,収束電子回折)4や二体相関関数)を用いた日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)短距離構造の結果が広く知られるようになって議論が進み,図1cのように<111>に分極した菱面体型の構造が永久双極子モーメントとなるような一種の秩序-無秩序型ではないかという認識が広まっている.ここで「一種の」と記述したのは,「2極小をもつ断熱ポテンシャル中を永久双極子が運動する」一般的な描像とは異なり,「常誘電相では8つの等価な<111>を向いた永久双極子が互いに相関をもって偏りが生じた結果,自発分極方向の4つのサイトに限定されて強誘電相が現れる」ということを意味している.5),6)著者は,このダイナミクスに興味をもち,主に非弾性光散乱を通してこの問題にかかわっている.単結晶から(a) BaTiO 3の誘電率の温度依存性ε(b)均一な考え方Slater ModeCriticalSlowingDown(c)不均一な考え方mmnm0.1 nmCrystalunit cell図1(a)BaTiO 3の誘電率の温度変化.(b)変位型と(c)秩序-無秩序型の相転移を基にした常誘電相の様子.((a)Temperature dependence of dielectric constant ofBaTiO 3. Schematic view to represent(b)displacivetypeand(c)order-disorder-type phase transitions.)205