ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

ページ
12/84

このページは 日本結晶学会誌Vol59No5 の電子ブックに掲載されている12ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No5

青柳忍図1共振している(a)水晶,(b)ランガサイト振動子のΔγの時間依存性.(Time dipendence ofΔγin resonantlyvibrating(a)quartz and(b)langasite oscillators.)換している.大きさEの静電場をb軸方向に印加したとき,Δγは~2d 11E(rad)だけ圧電変形すると期待される.図1aの水晶の実験ではb軸方向に振幅0.15 kV/mmの交流電場が,図1bのランガサイトの実験ではb軸方向に振幅0.20 kV/mmの交流電場が印加されている.同じ大きさの静電場をb軸方向に印加した場合,圧電定数よりΔγは,水晶では~0.4×10 -4°,ランガサイトでは~1.4×10 -4°と計算される.ところが図1では,Δγは0.1°を超える振幅で正弦波状に振動している.したがって,共振の効果により,格子歪みが10 3~10 4倍に飛躍的に増幅されていることがわかる.共振している水晶中の原子の運動を明らかにするため,図1a中の|Δγ|が最大となる時間Δt=9および25 nsでの結晶構造を比較した結果,以下の構造変化が観測された.まず,SiO 4四面体を構成する12個の独立なSi-O距離,18個の独立なO-Si-O角度には標準偏差(0.002 A,0.1°)を上回る有意な変化は観測されなかった.つまり,Δγが0.1°を超えるほど格子が歪んでいるのにもかかわらず,SiO 4四面体はまったく変形しない.一方,SiO 4四面体どうしをつなぐ6個の独立なSi-O-Si角度(143°)のうちの2個には,標準偏差(0.1°)を上回る大きな変化が観測され,その変化量は最大で±0.4(1)°にも達した.この特定のSi-O-Si角の大きな変形は,O原子の変位の向きと印加電場の向きとの関係によって説明できる.Si-O結合は強固なため,O原子の変位はSi-O-Si平面に垂直な方向に限定される.変形の大きい2個のSi-O-Si角では,Si-O-Si平面と電場の向きの関係が最も垂直に近い.そのためO原子は電場によって大きく変位し,その結果としてSi-O-Si角が大きく変形すると解釈できる.以上の結果より,水晶の圧電性は,Si-O-Si平面に垂直なO陰イオンの変位と,Si-O-Si角の弾性変形によって発現されると結論付けられた(図2).ランガサイトについて,図1b中の|Δγ|が最大となる時間Δt=9および27 nsでの結晶構造を比較した結果,水晶とは異なる構造変化が観測された.ランガサイトの結晶構造は,頂点共有したGaO 6八面体,GaO 4四面体,Ga 0.5Si 0.5O 4四面体と,その間隙にあるLa陽イオンで構図2共振している水晶で観測されたO陰イオンの変位.(Oxygen anion displacements observed in resonantlyvibrating quartz oscillator.)成される.水晶のSi-O-Si角と同様に,ランガサイトではGaO4四面体とGa0.5Si0.5O4四面体をつなぐGa-O-Ga(Si)角(122°)に最大で±0.2(1)°の変形が観測された.また水晶のSi-O距離と同様に,Ga(Si)-O距離には有意な変化は観測されなかった.一方,O-Ga(Si)-O角度には,水晶の強固なO-Si-O角度と異なり,大きな変化が観測された.Ga(Si)O 4四面体を構成する30個の独立なO-Ga(Si)-O角のうち,5個に変形が観測され,その変化量は最大で±0.3(2)°に達した.以上の結果より,ランガサイトの圧電定数の大きな圧電性は,水晶の場合と同様なO陰イオンの変位とGa-O-Ga(Si)角の弾性変形に加えて,O-Ga-O角の柔軟性に起因すると結論付けられた.まとめとして,水晶とランガサイトは,SiO 4,GaO 4四面体をつなぐO陰イオンのSi(Ga)-O-Si(Ga)平面に垂直な変位とSi(Ga)-O-Si(Ga)角の弾性変形により,電気的物理量(E,P)を弾性的物理量(σ,s)に変換する.またランガサイトは,O-Si-O角よりも柔軟なO-Ga-O角の変形により,水晶よりも大きな圧電変形を示す.本研究で確立した交流電場下時分割X線回折の実験技術は,その他の圧電結晶や強誘電結晶などの交流電場下の構造ダイナミクス計測にも応用できる.この手法を用いることで,今後さまざまな結晶の圧電・強誘電現象の微視的理解が飛躍的に進むものと期待している.本研究は,高輝度光科学研究センターの大沢仁志博士,杉本邦久博士,広島大学の森吉千佳子准教授,黒岩芳弘教授との共同研究により,SPring-8長期利用課題(2013A0100~2015B0100)の中で行われた.また,日本学術振興会科学研究費補助金(26870491),豊秋奨学会,大幸財団による研究助成の下で行われた.本研究をご支援頂いた方々に,深く感謝申し上げる.文献1)J. Davaasambuu, et al.: Europhys. Lett. 62, 834(2003).2)S. Aoyagi, et al.: Appl. Phys. Lett. 107, 201905(2015).3)S. Aoyagi, et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 55, 10TC05(2016).4)K. Sugimoto, et al.: AIP Conf. Proc. 1234, 887(2010).5)H. Osawa, et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 56, 048001(2017).6)C. Moriyoshi, et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 50, 09NE05(2011).204日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)