ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No5

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概要

日本結晶学会誌Vol59No5

日本結晶学会誌59,203-204(2017)最近の研究動向交流電場下X線回折による鉱物圧電振動子の時分割結晶構造解析名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科青柳忍Shinobu AOYAGI: Time-Resolved Crystal Structure Analysis of Piezoelectric Oscillatorsby X-ray Diffraction Under Alternating Electric Field圧電性を示す鉱物結晶は,振動子,センサなど,幅広い用途で産業利用されている.圧電性とは,応力σを加えると電気分極Pを発生し,逆に電場Eを加えると歪みsを発生する性質のことである.32種の結晶点群のうち,20種の点群に属する結晶が圧電性を示す.σとP,またはEとsをむすぶ一次の係数は3階のテンソルで圧電定数dと呼ばれる.圧電性の結晶として最もよく知られている結晶は水晶(石英,α-SiO 2)であり,地球上に豊富に産出する天然鉱物であるとともに,水熱法による人工合成が可能である.水晶は常温で点群32に属し,圧電定数テンソルは2つの成分d 11,d 14をもつ.また機械的性質に優れ,安定した周波数で機械振動する.これらの特徴から水晶は,時計をはじめとする電子機器の基準信号を発振する圧電振動子として広く利用されており,「産業の塩」とまで称される.ただし,水晶には欠点もある.それは,573℃で常温のα相から高温のβ相(点群622)に相転移するために,高温環境では圧電振動子として利用できない点である.このような事情から.熱機関内部などの高温環境でも利用できる高温用圧電素子材料の開発がこれまで進められてきた.そのうち,有望な材料の1つとして,ランガサイト(La 3Ga 5SiO 14)が挙げられる.ランガサイトは,水晶と同じ点群32に属し,~1,470℃付近の融点まで相転移を示さない.またランガサイトの圧電定数は,水晶のそれに比べて3倍程度大きいという利点がある.圧電性の発現は,単純には,結晶に応力σまたは電場Eを加えたときに生ずる陽イオンの重心と陰イオンの重心のずれによって説明できる.陽イオンの重心と陰イオンの重心がずれることで電気分極Pおよび歪みsが発生する.しかしながら,応力下または電場下での圧電的なイオンの変位を,精度よく検出するのは,実は大変難しい.例えば,厚さ0.1 mmの水晶の表裏に1 kVの電位差を与えたとき電場Eは10 kV/mmであり,歪みsは圧電定数dより~10 -5と見積もられる.水晶の結晶構造は頂点共有したSiO 4四面体で構成され,そのSi-O結合距離は1.6 A,O-Si-O結合角度は109°である.したがってE=10 kV/mmの電場下のSi-O距離とO-Si-O角度の変化量は,それぞれ~10 -5 A,~10 -3°程度と予測される.X日本結晶学会誌第59巻第5号(2017)線結晶構造解析において,結合距離と結合角度の標準偏差を,この変化量以下に抑えることは,通常きわめて困難である.実際,過去に数kV/mmの静電場下で水晶のX線結晶構造解析が行われているものの,1)結合距離と結合角度の標準偏差に比べて十分有意な構造変化は観測できていない.したがって,これらの圧電結晶がどのようにして圧電性を発現し得るのか,その微視的機構については,実は結晶学的に十分理解できていなかった.水晶に代表される圧電結晶の圧電性の微視的発現機構を解明することは,結晶学の進展に寄与するだけでなく,工業的にも圧電材料の機能向上などに役立つ.そのために最近筆者らは,交流電場下で共振している圧電結晶中の原子変位を,短パルス放射光を用いた時分割X線回折により計測する実験手法の開発に取り組んできた.交流電場下での共振効果を利用することで,圧電結晶中のごく微小なイオンの変位を,X線結晶構造解析で十分検出できる程度までに大きく増幅できるのではないかと考えた.以下に,2),3水晶とランガサイトに対する実験の結果)を紹介する.実験は大型放射光施設SPring-8のビームラインBL02B1 4)で行った.パルス幅~50 psのパルスX線を,X線チョッパー5),6)を用いて26 kHzまたは52 kHzの繰り返し周波数で取り出して実験に用いた.試料には市販の発振周波数30 MHzのATカット水晶振動子,28 MHzのYカットランガサイト振動子を用いた.これらの振動子は,電場に対して垂直にずれ歪みを生ずる厚みすべり振動をする.これらの振動子に,発振周波数と同じ周波数の交流電場を加えると,共振を起こしインピーダンスは大きく減少する.共振状態の圧電振動子に,交流電場と同期させてパルスX線を繰り返し照射することで,振動の1周期(水晶:33 ns,ランガサイト:36 ns)のうちのある瞬間のX線回折データを大型湾曲イメージングプレートカメラで収集した.パルスX線に対する交流電場の遅延時間を変化させることで,共振している圧電振動子のX線回折データの時間変化を追跡した.図1は,共振している試料の格子定数γの変化量Δγ(=γ-90°)の時間変化である.水晶,ランガサイトはともに三方晶に属すが,ここでは単位格子をC底心直方格子に変203