ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

日本結晶学会誌59,51-63(2017)対称性と群論(2)空間群のヒエラルキーと分類ロレーヌ大学結晶学教室ネスポロマッシモMassimo NESPOLO: Hierarchy and Classification ofSpace Groups前回の記事1)でヘルマン・モーガン記号(国際記号)から対称性の導き方を説明した.結晶構造の対称操作は全域操作と局所操作に分類される.前者は「群」という代数学概念を形成し,その群は「空間群」という.局所操作も考慮すれば「亜群」というより一般の概念が必2要)だが入門を超える内容なのでここでは省略する.今回は空間群のヒエラルキーと分類を説明する.日常的に利用される「晶系」というカテゴリーがあれば滅多に出会わない「ブラべー群れ」などのようなカテゴリーもあるが簡単だと思われるものにも罠が隠れている.その罠を避けるために必要な理解を深めることを今回の目的にする.以下で利用する定義と記号に関しては文献1)を参照.1.ヒエラルキーと分類図1はInternational Tables for Crystallography, Volume A(以下ITAと省略する)第6版第1章図1.3.4.1を拡張したものである3)(ア:二次元空間;イ:三次元空間).二次元の空間群は文様群か壁紙群(wallpaper groupの翻訳だが英語では普通plane group)と呼ぶ.この図を日本語に翻訳するに当たって問題が生じる.「晶系」と「空間群タイプ」はcrystal systemとspace-group typeに当て嵌まるがcrystal classは普通に「晶族」と翻訳されている.しかし,松本(1977)4)に説明があるように「晶族」という語彙はcrystal familyを連想させるため英文のcrystal classの翻訳としては不適切である.したがって,本稿では松本(1977)4)に基づきcrystal classを「結晶類」に訂正し,crystal familyを「結晶族」と呼ぶこととする*1.その他のカテゴリーは日本語になっていないようなので本稿ではそれらの翻訳を提唱する.近い将来に日本結晶学会に正式な翻訳を決定するように希望している.図1は左右2つの部分に分けられている.右の部分は群(点群と空間群)のヒエラルキーを表示する.左の部分は群の「類」,「系」,「族」への分類を表示する.この相違を理解するために右には「モノ(object)」,左には「箱」があると例えよう.あるモノ(object)をある基準によっ日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)ていくつかの箱に分配する.別の基準を利用すると,別の分配になる(箱の数も異なる).強調のため,図1で「モノ(object)」は白色で,「箱」は灰色で表示する.区分は下段のほうが細かく,上に行くほど粗くなる.横の移動は「ある基準によってモノ(object)を箱に挿入する」という論理的な過程が行われる.二重矢印(?)は「モノ(object)」と「箱」の一対一対応を示す.この関係が成り立っている場合でも「モノ(object)」と「箱」は同一の概念にならない.混乱を避けるためにできるだけ別の記号を採用するが,点群タイプと幾何的結晶類のような例では同じ記号を利用する場合もあるので注意すべき一点である.2.群のヒエラルキー対称操作は線型部分(行列W)と並進部分(ベクトルw)で表現する.結晶構造の周期性と互換性のある対称操作を線型部分で分類すると二次元空間では6種類(1,_ _2,3,4,6,m),三次元空間では10種類(1,2,3,4,6,1,2_ _ _≡m,3,4,6)がある.これらの行列Wのみで形成される群は点群で,並進部分も含む操作(W,w)で形成される群は空間群である.点群操作には並進部分は存在しないため点群操作の表現はWのみである.図1の最右にある操作の行列表現はこの違いを強調している.2.1群対群タイプ連載企画ヘルマン・モーガンの記号の解読では「空間群」と「空間群タイプ」の相違を説明したが,*2点群においても同じ区別に注目する必要がある.二次元と三次元空間ではそれぞれ10個と32個の点群が存在するという断言を頻繁に目にするが,実はこれらは点群タイプ(point-group types)である.対称要素の方位を考慮すれば「点」以外の幾何的要素(すなわち,「線」と「面」)に無限の可能性があるので,1,2,3,4,6以外(二次元空間)*1文献4)ではBravaisは「ブラーべス」と書かれているがフランス語の発音と合わないためここで「ブラべー」と訂正する.*2著者によって,空間群タイプ,空間群型,空間群種という3つの呼称が利用されている.51