ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

クリスタリット配列相同性にもかかわらずよく似た立体構造を示す.ATP graspモチーフの構造は,手に例えると人差し指から小指までの4本指に相当するAまたはA,Cドメイン(コア構造)と,親指に相当するBドメインが1分子のATPを握る(grasp)ような形状をもつ.また,親指に相当するBドメインは蓋のように開閉し,ATPが結合することで蓋が閉じ触媒反応に適したATPを握る構造へ変化する.ATP grasp酵素は生体機能において,プリン塩基のde novo合成やペプチドグリカン生合成など多様な反応に関与している.その反応機構は一般的に1番目の基質をATPとMg 2+存在下でリン酸化により活性化させ,2番目の基質が求核剤として働くことで基質同士が縮合する.一方,個々の酵素の生成物の違いは,ATP結合部位近傍に位置する基質結合部位の立体構造の違いによる基質選択性によって担保されている.(富山大学和漢医薬学総合研究所松井崇)光遺伝学Optogenetics光によって活性化されるタンパク質分子を遺伝学的手法により,細胞内へのシグナルの発現や,特定の細胞に発現など,その機能を光で操作する技術である.光(opto)と遺伝学(genetics)を組み合わせたことから光遺伝学と呼ばれる.光遺伝学の開発により,細胞内でのセカンドメッセンジャーの制御や,特定の神経の活動を高い時間精度で正確に操作することが可能となった.(横浜市立大学大学院生命医科学研究科朴三用)哺乳類細胞発現系Mammalian Expression System組み換えタンパク質発現系の1つ.哺乳類培養細胞株であるHuman Embryonic Kidney(HEK)293細胞,ChineseHamster Ovary(CHO)細胞およびそれらの派生株を用いるのが一般的である.大腸菌発現系およびバキュロウイルスを用いた昆虫細胞発現系では,糖鎖修飾などの翻訳後修飾が哺乳類細胞と異なるため,正常にフォールディングしたタンパク質の発現・精製が困難な場合がある.そのような場合では哺乳類細胞発現系を用いることで解決できる.また,哺乳類培養細胞は遺伝子組み換え生物に該当しない点で,取り扱いが容易である.哺乳類細胞発現系では一過性発現と,安定発現の2種類の発現方法がある.コスト,時間,収量にそれぞれメリット・デメリットがあるが,分泌タンパク質の場合は安定発現,細胞内タンパク質の場合は一過性発現で発現させるのが一般的である.(高エネルギー加速器研究機構桑原直之)日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)コヒーシンCohesin姉妹染色分体の接着を司るリング状のタンパク質複合体.酵母からヒトまで広く保存されている.コヒーシンはSmc1,Smc3,Scc1,Scc3の4つのサブユニットから構成され,巨大なリング状の構造を形成する.コヒーシンはそのリング内部にDNAを囲うことでDNAとトポロジカルに結合する.これによりコヒーシンは姉妹染色分体同士を接着し,細胞分裂時における正常な姉妹染色分体の分配を制御している.コヒーシンはほかにも,転写制御やDNA修復にも関与することが示されており,染色体の恒常性の維持に重要な役割を果たしている.コヒーシンとその関連タンパク質の異常はコヒーシン病と呼ばれる遺伝性疾患や,がん化を引き起こす.(テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンター菊池壮太郎)コヒーシンローダーCohesin Loaderコヒーシンの染色体DNA上への結合(コヒーシンローディング)を制御するタンパク質複合体.コヒーシンはDNA非存在下でもリング状の閉じた構造を形成しているため,コヒーシンローディングの際にはコヒーシンの環状構造が開く必要がある.コヒーシンローダーであるScc2-Scc4複合体は,分裂終期・G1期にATP加水分解のエネルギーを利用してコヒーシンリングを開き,コヒーシンをDNA上にロードする.コヒーシン病の一種であるコルネリア・デ・ランゲ症候群(CdLS)では,患者の60%でScc2の変異が見られる.(テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンター菊池壮太郎)コヒーシンリリーサーCohesin Releasing Complexコヒーシンローダーとは逆に,染色体DNA上からコヒーシンが解離するのを制御するタンパク質複合体.Pds5-Wapl複合体は細胞分裂期にセントロメア部分以外のコヒーシンを染色体上から解離させる.コヒーシンローダーと同様に,Pds5-Wapl複合体もATP加水分解のエネルギーを利用し,Smc3とScc1との結合を解離させる.これによりコヒーシンリングを開き,コヒーシンを染色体上からリリースさせる.Pds5は,単体ではコヒーシンサブユニットのScc1に結合し,ほかのコヒーシン関連タンパク質と協調してコヒーシンリングの安定化にも寄与している.(テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンター菊池壮太郎)129