ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

クリスタリットQuintet状態Quintet State全スピン量子数をSとしたときスピン多重度NはN=2S+1で与えられ,S=2すなわちN=5である量子状態のことをQuintet(五重項)状態と言う.不対電子が4個ある場合,全スピンの固有値は3とおりあり,スピンS=0,1,2に対応するものが存在する.それぞれの固有値に対応する固有状態は1つとは限らない.スピンS=2の状態は5つの固有状態に対応し,スピンの特定方向成分の値は-2,-1,0,+1,+2のいずれかとなる.例えば,酸素分子ダイマー(O 2-O 2)では不対電子の数は4個であり,基底状態はSinglet(一重項)状態(S=0),第一励起状態はTriplet(三重項)状態(S=1),そして,第二励起状態がQuintet状態(S=2)である.(大阪府立大学大学院理学系研究科久保田佳基)電気四重極子相互作用Electric Quadrupole Interactionモーメントの大きさが等しい2つの電気双極子が逆向きに並んで,正負の電荷が交互に並んでいるような配列をとるときこれを電気四重極子と言う.そのポテンシャル表面は鞍のような形をもち,電気四重極子同士には相互作用が発生する.酸素や窒素のような二原子分子は化学結合による電荷の偏りによる電気四重極子をもつので,分子間に引力がはたらく.ファンデルワールス相互作用は,ロンドン分散力と電気双極子相互作用,電気四重極子相互作用の総称である.(大阪府立大学大学院理学系研究科久保田佳基)電子線三次元結晶構造解析Electron 3D Crystallography分子が三次元に並んだ薄い結晶から,電子線回折パターンを測定,結晶構造を解析する技術.先に確立されたタンパク質の電子線二次元結晶構造解析では,分子が1層にのみ並んだ二次元の結晶を対象とする.二次元結晶からの回折は繰り返しのない方向に連続的な格子線となるのに対して,三次元結晶ではすべての方向に離散的に分布する回折点となる.したがって,その回折点の強度情報をもれなく取得するためには,試料を回転させながら回折パターンを記録する回転測定や,ある角度ごとに,静止パターンや電子線を傾けたプレセッションパターンを撮影することが必要になる.電子線はX線に比べて4~5乗も強く物質と相互作用するため,X線結晶構造解析に適さない微小で薄い単結晶が使用できる.反対に,主に軽い元素からなるタンパク質の結晶でも,厚さ200~300 nmを超えるものからの解析は難しくなる.電子線の原子の散乱特性からは,電荷分布に関する情報が得られる.(理化学研究所放射光科学総合研究センター米倉功治)ペプチド系抗生物質Peptide Antibioticsペプチド系抗生物質は,真菌や微生物が産生するタンパク質性または非タンパク質性アミノ酸からなるポリペプチド鎖を有する二次代謝産物である.ペプチド系抗生物質のペプチド鎖の生合成は,一般的に非リボソーム系合成酵素によりペプチド鎖が伸長するものがほとんどであるが,遺伝子上にコードされmRNAを鋳型とするリボソーム翻訳系により合成されるものも存在する.これらの機構により形成されたペプチド鎖は,その後,アシル化やグリコシル化などの修飾を経て最終生成物であるペプチド系抗生物質へと変換される.ペプチド系抗生物質の中には,抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌製剤や免疫抑制剤など臨床に応用されているものも少なくない.(富山大学和漢医薬学総合研究所松井崇)非リボソーム系ペプチド合成酵素Non-Ribosomal Peptide Synthetase真菌や細菌が産生するペプチド系抗生物質の基本構造であるペプチド鎖は,リボソーム翻訳系とは異なる非リボソーム系ペプチド合成酵素(Non-Ribosomal PeptideSynthetase,NRPS)により合成されるものが多い.NRPSは複数のモジュールからなる多機能巨大酵素で,1つのモジュールは1つのアミノ酸の選択やヘプチド鎖の伸長にかかわる機能ドメインで構成されている.長鎖ペプチドの構築は,1つのNRPSではなく複数のNRPSにより生合成される.また,NRPS内にはメチル化や酸化,還元など,ペプチド鎖伸長以外の機能を有するドメインが含まれることがあり,これらは構成アミノ酸の化学変換に関与している.(富山大学和漢医薬学総合研究所松井崇)ATP graspモチーフATP Grasp MotifATP graspモチーフをもつ酵素は非常に低いアミノ酸128日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)