ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

コヒーシンローダーScc2のX線結晶構造解析ンローディングのメカニズムを明らかにするにはさらなる機能解析が必要である.4.Scc2はコヒーシンのどのゲートを開くのか姉妹染色体接着の際,コヒーシンはScc2によって染色体DNA上にロードされる.DNAがこのコヒーシンリングの中に入り込むためには,コヒーシンのSmc1-Smc3のヒンジ部位,Smc3ヘッド-Scc1N末端部位,またはSmc1ヘッド-Scc1C末端部位のいずれか,または複数箇所がロードされる際に開く必要がある(図1).このDNAが入り込む際のコヒーシンの“ゲート”に関してはいまだに不明な点が多く,どの部分がゲートとして働き,開くのかという謎は現在も議論がなされている.出芽酵母における実験では,人工的にSmc1-Smc3のヒンジ部分を繋ぎ止めたコヒーシンは,コヒーシンのローディングが妨げられた.また,Smc3とScc1N末端およびSmc1とScc1C末端とをそれぞれ繋ぎ止めたコヒーシンではローディング能が失われないことが報告されている. 18)この結果から,ヒンジ部分がゲートとして働くのではないかというモデルが提示されている.しかしながら,コヒーシンのローディングにはヘッドドメイン部分にあるATPase活性が必要であり,ヒンジ部分から数十ナノメートル離れたSmc1-Smc3ヘッドドメインのATPase活性がどのように作用してこのゲートを開くのかは現段階では説明することができない.別の考えられるモデルとしては,Scc2とDNAがコヒーシンと複合体を形成し,ATP加水分解を活性化させ,Smc3ヘッド-Scc1N末端インターフェースのゲートを開くというモデルである(図6).Smc3ヘッド-Scc1N末端の相互作用界面はSmc3-Smc1両ヘッドドメインのATPase部分に隣接しているため,このモデルは合理的にも思われる.しかし,このモデルは酵母においてSmc3-Scc1Nを繋いだコヒーシンがローディング能を失わないという結果を説明することができない.ローディングの際に,コヒーシンのどのインターフェースがDNAの“ゲート”となるかを明らかにするには,さらなる研究が必要である.5.おわりに今回の研究では,筆者らはScc2のC末端ドメインの結晶構造を明らかにした.また,Scc2がScc1のN末端領域を介してコヒーシンと相互作用すること,そしてその相互作用がPds5と競合することを明らかにした.Scc1結合タンパク質であるPds5,Scc3との構造類似性に加え,コヒーシン病の変異実験結果も踏まえると,このScc1とScc2の相互作用は,コヒーシンローディングの重要な役割を果たしていることが示唆された.筆者らは,このScc2-Scc1相互作用が,コヒーシン複合体において,ATP結合によりSmc1-Smc3のヘッドドメインが会合した状日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)図6 Scc2によるコヒーシンローディングのモデル.(Model for Scc2-dependent cohesin loading ontoDNA.)Scc2はScc1-Scc2間相互作用を介してコヒーシンと複合体を形成する.Scc2はヘッド部分のATPase活性を利用してコヒーシンのローディングと転写制御を行う.Pds5はScc2と競合的にScc1と結合することで,ロード済みのコヒーシンからScc2を遊離させる.態を安定化させ,続いてコヒーシンのATP加水分解を活性化することでローディング反応を促すのではないかと推測している(図6).Pds5はScc2と競合することで,コヒーシンがクロマチンにロードされた後に,Scc2のコヒーシンからの解離を促し,ゲートを閉じ安定化させると同時に,解離したScc2を次のサイクルのローディングに再利用できるようにしているのかもしれない.また,Scc2のコヒーシン病への影響についても不明な点が多い.CdLs患者の細胞では,コヒーシンローディングと姉妹染色体接着への影響が見られない.そのため,Scc2の変異は,発達にかかわる遺伝子の転写制御に影響を与えることで,コヒーシン病の原因となるというモデルが現在一般的である.マウスES細胞において,Scc2とコヒーシンがメディエーターと協調的に転写を活性化させることが報告されている. 19)将来的に,ヒトES細胞またはiPS細胞を用いて,Scc2変異体の転写制御への影響を調べることは,コヒーシン病を理解するうえで非常に意義深いと考えている.これらのコヒーシンのメカニズムの詳細を明らかにするうえで,機能性を保持した全長コヒーシン複合体と関連タンパク質の調製が必須であり,今後の大きな課題である.125