ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

コヒーシンローダーScc2のX線結晶構造解析構造によく似ていた(図2C,D). 11)-15)実際に,Daliサーバー上の検索ではヒトSA2-Scc1複合体構造が最も構造類似性が高いという結果が得られた.Scc2とSA2は逆平行に折り畳まれた2つのヘリックスを繰り返し単位としたHEATリピートによって構成されており,Pds5はそれに加えてイノシトール六リン酸エステルが強く結合することで折れ曲がった構造が安定化されている. 13)SA2とPds5はともにScc1結合モチーフをもつタンパク質であり,それぞれがScc1の異なる領域で相互作用している.SA2はScc1の中間領域と,Pds5はScc1のNHD近傍の領域と相互作用している.ヒトSA2-Scc1複合体構造では,Scc1フラグメントは約70アミノ酸残基にわたりSA2のフック内と広範囲に相互作用している. 11)同様に,真菌のPds5-Scc1複合体構造では,Pds5もC末端領域のフック部分でScc1と相互作用している. 14),15)これらの構造と同様に,Scc2もコヒーシンリングを開ローディングの際にC末端が形成するフックの内部でScc1と相互作用する可能性が示唆された.3.Scc2とコヒーシンサブユニットの相互作用解析3.1 Scc2はScc1を介してコヒーシンと相互作用するScc2がコヒーシンのどのサブユニットと相互作用するかを調べるために,35 Sで標識したそれぞれのコヒーシンサブユニット:Smc1-Smc3複合体,Smc3,Smc1,Scc1,Scc3を無細胞タンパク質発現系で発現させ,それぞれGST融合Scc2との相互作用を調べた.コヒーシンサブユニットの中で,Scc1は単独では大部分が天然変性状態であるため,精製が非常に困難であるが,35 S標識を用いることで,Scc1のような発現量が非常に少なく精製が困難なタンパク質についても,高感度でそのタンパク質間相互作用を検出することができる.相互作用解析の結果,Scc1のみがScc2との相互作用が確認でき,ほかのサブユニットでは相互作用が確認できなかった.次に,Scc1のScc2相互作用領域を明らかにするため,いくつかの35 Sで標識されたScc1のフラグメントを作製し,それぞれScc2との相互作用を調べた.その結果,N末端領域の126-230アミノ酸残基の領域がScc2と強く相互作用することがわかった.このことは,Scc2はPds5と競合的にScc1と相互作用する可能性が示唆された.また,等温滴定型カロリメトリーを用いて,精製したScc2(385-1840)とScc1(126-230)の解離定数Kdを測定したところ,Kdは20.4 nMであった.このことから,Scc2はScc1のN末端領域に高いアフィニティーで結合することがわかった.この結果は,以前に報告された分裂酵母のRad21(Scc1のオルソログ)の145-152アミノ酸残基の領域がScc2-Scc4と相互作用するというペプチドアレイの結果とも一致していた.7)しかし,この先行研究では,Scc2-Scc4がコヒーシンと複数箇所で相互作用している日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)ことが示されている. 16)また,今回の構造には含まれないScc2のN領域がコヒーシンと相互作用することも報告されており, 16)コヒーシンローダーとコヒーシンの相互作用をより詳細に調べるには,全長の複合体の構造学的な知見が必要である.3.2コヒーシン病患者に見られるScc2の変異はScc2-Scc1間相互作用を弱めるCdLs患者の多くで,Scc2のヒトホモログであるNIPBLの変異が確認されている.6)NIPBLはCt Scc2と比較して約100 kDa大きいタンパク質ではあるが,C末端のHEATリピートドメインはよく保存されている.酵母からヒトまでのScc2の配列を比較し,Ct Scc2との配列相同性を調べたところ,よく保存された残基はフック上にある2つの領域(パッチI,II)に集中していた(図3A).興味深いことに,ヒトScc2においてCdLSの原因となるミスセンス変異の多くが,パッチ上に保存された残基の変異であった.そこで筆者らは,これらのパッチ上にある,保存された残基のミスセンス変異を導入したGST-Scc2変異体を精製し,Scc1(126-230)との相互作用を調べた.その結果,これらの変異体の大部分が野生型と比較して,Scc1との相互作用が著しく低下していた(図3D).この結果から,Scc1-Scc2の相互作用界面は,Scc2のフック上にあるパッチ部分にあると考えられる.また,コヒーシン病に見られる変異がCtにおいてもScc2-Scc1間相互作用に影響を与えたことから,このScc2-Scc1の相互作用様式はヒトを始めほかの生物集においても広く保存されていると考えられる.A1367やL1373はScc2の疎水性コアの内部に埋もれており,Scc1と直接相互作用できないと考えらえるため,A1367FとL1373P変異体はScc2のパッチ領域のコンフォーメーションに影響を与えることで,間接的にScc1との相互作用を低下させると考えらえる.同様に,R1053とR1081はD1084との静電的相互作用しており,他方ではR1090とR1120がD1123と相互作用している.これらの残基はScc1と直接的な相互作用をしていないが,Scc2のHEATリピートのH9,H10,H11のコンフォーメーションに影響を与えていると考えられる(図3B,C).また,Scc2はDNAと結合し,コヒーシンのATPase活性を上昇させることが分裂酵母において報告されている.7)しかしながら,Ct Scc2の静電ポテンシャルを見ると,強く正に帯電した箇所やポケットが見当たらない(図4).フック側面にある領域が(パッチI)が,最も強い正に帯電しており,アミノ酸配列も比較的保存されている.しかし,先述したようにパッチIはScc1との相互作用部位であることが変異体の結合実験から示されており,この領域がDNA結合部位であるとは考えにくい.今回の構造には含まれないCt Scc2のC末端部分(1888-1946)には,配列保存性は低いものの,多くの塩基性残基が含まれている.Ct Scc2において,このC123