ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

菊池壮太郎,HongtaoYU図2(A)Scc2-Scc4複合体の概略図.(B)CtScc2385-1840の結晶構造(PDBID:5T8V).(C)ヒト(Hs)SA2-Scc1複合体の結晶構造(PDB ID:4PJU).(D)Lachancea thermotolerans(Lt)Pds5-Scc1複合体の結晶構造(PDB ID:5F0O).((A)SchematicdrawingoftheCtScc2-Scc4complex.(B)CrystalstructureofCtScc2385-1840.(C)Crystalstructureofthe human SA2-Scc1 complex.(D)Crystal structure of the LtPds5-Scc1 complex.)多い.これらを明らかにすることを目指し,筆者らは好熱性真菌Chaetomium thermophilum(Ct)のScc2の結晶構造を明らかにした.9)本稿では,Ct Scc2の結晶構造解析,Scc2とコヒーシンサブユニットScc1との相互作用解析,CdLsに関与するScc2変異体の相互作用解析,そしてコヒーシンリリーサーPds5との競合実験について紹介する.2.Ct Scc2の結晶構造Scc2はN末端にScc4との相互作用部位である天然変性領域を有するが,それ以外のほとんどの領域はHEATリピートドメインにより構成されている(図2A).Scc4はin vivoにおいては正常なコヒーシンのローディングに不可欠であり,Scc2を染色体上にリクルートし,安定化させるために働いていると考えられている.一方,invitroにおけるローディングアッセイではScc4は必要としないことが報告されている. 10)このことからScc2のC末端領域のHEATリピートドメインがコヒーシンのローディングに重要な機能を果たしていると考えられる.筆者らはまず,コヒーシンローダー全長の結晶構造解析を目指し,Ct Scc2とCt Scc4複合体を,昆虫細胞発現系を用いて精製の検討を行った.好熱性真菌Chaetomiumthermophilumのタンパク質は安定性に優れ,巨大なタンパク質の調製・結晶化には適している.筆者の研究室では多くのChaetomium thermophilum由来のコヒーシン関連タンパク質の構造を報告している.全長Ct Scc2は単体で発現させた場合は非常に不安定であったが,Scc4と共発現させることで安定性と収量が大幅に上昇し,純度の高いローダー複合体を精製することができた.しかしながら,全長のScc2-Scc4複合体は結晶化には至らなかった.すでに報告されていた電子顕微鏡による低分解能のScc2-Scc4複合体構造から,Scc2にはN末端側のScc4相互作用領域と,C末端側のHEATリピートドメインとの中間領域に,構造をもたないフレキシブルな可動性領域があることが示されており,9)このフレキシブルな領域が結晶化に適さないことが示唆された.実際に,精製したCt Scc2-Scc4複合体は比較的安定ではあったものの,20℃において緩やかなScc2の分解が見られ,分解産物の分子量からN末端領域とC末端領域がこの中間部分で切断されていると考えられた.そこで筆者らは次に,Scc2単体,特にローディング能をもつと考えられるHEATリピートドメインの結晶構造解析を目指した.いくつかのScc2のN末端領域を削ったScc2のHEATリピートドメインの発現系を作製し,精製と結晶化の検討を行った.その結果,約160 kDaのScc2のC末領域の結晶を得ることに成功した.しかし,この結晶は再現性こそあるものの析出までに約1カ月を要し,結晶の最適化を繰り返すのが困難であった.そこで,二次構造予測の結果を基に,C末端領域をさらに削った発現系の検討を行った.C末端領域を削ったものは,多くの条件でかつ短期間で結晶が析出した.最終的に,Scc2のすべてのHEATリピートを含むScc2 385-1840の結晶について,セレノメチオニン誘導体を作製し,SAD法を用いて,2.8 A分解能で結晶構造を明らかにした(図2B).Scc2は24のHEATリピート(H7~H24)とH7とH8の間のヘリカルインサートにより構成されていた.Scc2はハンドルの付いたフックのような構造をしており,H1からH7までがハンドル部分を,H8からH24までがフック部分を構成していた.この大きく折れ曲がった構造は電子顕微鏡による低分解能構造で見られた特徴とも一致していた.このフック様のScc2の構造は,同じコヒーシン関連タンパク質であるSA2(Scc3のヒトホモログ)とPds5の122日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)