ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

日本結晶学会誌59,121-126(2017)最近の研究からコヒーシンローダーScc2のX線結晶構造解析テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンター菊池壮太郎,Hongtao YUSotaro KIKUCHI and Hongtao YU: Crystal Structure of the Cohesin Loader Scc2The ring-shaped cohesin complex entraps chromosomes and regulates chromosome biology. Thecohesin core consists of Smc1, Smc3, Scc1 and Scc3. Scc2-Scc4 complex is known as a cohesin loaderand loads cohesin onto chromosomes. Mutations of Scc2 cause human developmental diseases termedcohesinopathy. Here we determined the crystal structure of Chaetomium thermophilum(Ct)Scc2 andits interaction with cohesin. The structure consists mostly of HEAT repeats and it forms a hook-shapedstructure that similar with Scc3 and Pds5. Many cohesinopathy mutations in Scc2 diminish the Scc2-Scc1 interaction. Our study defines a functionally important interaction between cohesin and Scc2.1.はじめに1.1コヒーシンについて細胞分裂において,正常な姉妹染色分体の形成と分配はゲノム恒常性を維持するために非常に重要な機構であり,その異常はがんや重篤な遺伝性疾患を引き起こす.1)コヒーシンは姉妹染色分体の接着を司るリング状のタンパク質複合体で,Smc1,Smc3,Scc1,Scc3の4つのサブユニットにより構成される(図1).Smc1とSmc3は類似したドメイン構造を有し,ヒンジドメイン,コイルドコイルドメイン,ヘッドドメインをもつ.Smc1とSmc3はお互いのヒンジドメインを介してヘテロ二量体を形成する.Scc1はN末端領域(Scc1N)を介してSmc3のヘッドドメインおよび近傍のコイルドコイルドメインと相互作用する.一方,Scc1のC末端領域(Scc1C)はSmc1のヘッドドメインと相互作用する.Scc3(ヒトではSA1あるいはSA2)はScc1の中間領域と結合している.コヒーシンはそのリング内部でDNAとトポロジカル図1コヒーシン複合体のリング構造.(Ring-shaped structureof Cohesin complex.)コヒーシン複合体はリング内でDNAとトポロジカルに結合する.Scc2-4複合体によってコヒーシンは染色体上にロードされ,Pds5-Wapl複合体によって染色体上からリリースされる.日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)な結合をし,これによって染色体のさまざまな機能の制御にかかわっている.2)細胞周期の間期においては,染色体ループの形成を媒介することで,転写制御にかかわっている.S期においては,コヒーシンは姉妹染色体を物理的に繋ぎ止め,姉妹染色体接着を制御している.このコヒーシンによる染色体の高次構造の制御は正常な染色体分配を行うために必須である.またDNA損傷の際には,コヒーシンが姉妹染色体を損傷部位の近傍に保持し,相同組み換えDNA修復にも関与している.1.2コヒーシンローダー:Scc2-Scc4複合体これらの多様なコヒーシンの働きは,コヒーシンローダーであるScc2-Scc4複合体やコヒーシンリリーサーであるPds5-Waplなどのコヒーシン制御タンパク質によって緻密に制御されている(図1).Scc2-Scc4複合体は,分裂終期・G1期にコヒーシンの染色体上への結合(ロード)を促す.3)一方,Pds5-Wapl複合体はSmc3-Scc1相互作用界面を開くことでコヒーシンを染色体から解離させる.このどちらの反応もコヒーシンのATPase活性が必要であり,Scc2-Scc4複合体とPds5-Wapl複合体はATP加水分解のエネルギーを利用してコヒーシンリングを開き,それによりコヒーシンリング内へのDNAの出入りを制御している.コヒーシンとその関連タンパク質の異常は,コヒーシン病と呼ばれる遺伝性疾患を引き起こすことが知られている.例えば,コヒーシン病の一種であるコルネリア・デ・ランゲ症候群(CdLS)では,患者の60%でScc2の変異が知られており,4)-6)Scc2はヒトの正常な発達に必須なタンパク質と考えられている.これまでに,Scc4全長とScc2のN末端フラグメントの複合体の結晶構造および全長Scc2-Scc4複合体の電子顕微鏡による低分解能の構造が報告されている.7),8)しかし,Scc2の詳細な立体構造,コヒーシンのローディングメカニズム,CdLSとScc2変異の関係についていまだ不明な点が121