ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

POMGnT1の構造解析による筋ジストロフィー疾患発症機序解明ACFKTNFKTNStemCat.POMGnT1StemCat.Ser/ThrSer/ThrCore M1Ser/ThrBSer/ThrSer/ThrSer/ThrCore M3-dystroglycanDFKTNStemCat.Ser/Thr Ser/Thr Ser/ThrSer/ThrSer/ThrCore M1Ser/ThrCore M1図5POMGnT1によるO-マンノース型糖鎖修飾機構モデル.(Model of POMGnT1 function inαDG glycosylation.)(A)小胞体からゴルジ体に輸送されたαDGはcoreM3およびMan-O構造をもつ.cis-ゴルジではPOMGnT1とFKTNが膜ドメインを介して複合体を形成している.(B)POMGnT1はまずcore M3と相互作用することでαDGを認識する.この相互作用によりPOMGnT1のcore M1生合成を促進させる.さらにこの相互作用により,FKTNとcore M3との相互作用を媒介することで,core M3へのリビトールリン酸修飾も促進させる.(C)POMGnT1は自身が生成したcore M1糖鎖(GlcNAc-β2-Man)をステムドメインが次に認識することにより,近傍のMan-O-部位認識を促す.(D)この一連の働きによって,ポストリン酸化修飾の最初のステップであるリビトールリン酸修飾および,さらにアミノ酸配列非特異的なcore M1糖鎖のクラスタリングを可能にしている.型および触媒ドメインの変異体を発現させることでIIH6抗原が復活することがわかった.このことはPOMGnT1がもつGlcNAc-β2転移活性は,ポストリン酸化修飾に無関係であることを示している.一方で糖結合活性を失うステムドメインの変異体ではIIH6抗原の回復が見られなかった.このことはPOMGnT1の糖転移活性ではなく,ステムドメインの糖結合活性がポストリン酸化修飾に重要であることを示している.以上のような結果から我々はPOMGnT1によるポストリン酸化修飾調節機構を明らかにするとともに,POMGnT1変異による筋ジストロフィー疾患メカニズムを提唱した(図5).6)3.おわりに本研究のようなタンパク質の機能不全に起因する疾患の場合,阻害剤ではなく促進剤が疾患の治療薬に求められるため,タンパク質の構造情報を用いた創薬に結びつきにくい.しかしタンパク質立体構造に基づく詳細な機能解析により疾患発症機構を明らかにすることで,遺伝子変異や症状に加えて,それぞれの患者の発症機構に基づく,効率的な治療法の選択や提案などに結びつくことが期待できる.ステムドメインと立体構造が類似していることがわかったFAM3ファミリーはサイトカインとして発見され,日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)ファミリータンパクのうちFAM3B(pancreatic-derivedfactor,PANDER),FAM3C(interleukin-like epithelialmesenchymaltransition inducer,ILEI)が比較的よく調べられている. 15)これらはこれまでに糖代謝やがんなどへの関与が報告されているが,詳細な機能や受容体は不明である.本研究で明らかにしたステムドメインの糖結合活性にかかわる残基は,FAM3ファミリーでも保存されていることから,FAM3BやFAM3Cも同様な糖結合活性をもつことが推測できる.今回得られた結果をもとにFAM3ファミリータンパク質の機能解析が発展することを期待している.謝辞本稿で紹介した研究は,主に高エネルギー加速器研究機構構造生物学研究センターおよび東京都健康長寿医療センター研究所で行われたものである.本研究は産業技術総合研究所生命工学研究領域創薬基盤研究部門の平林淳主席研究員,舘野浩章主任研究員,神戸大学大学院医学研究科の金川基講師,小林千浩准教授,戸田達史教授,横浜市立大学生命医学研究科池口満徳教授,野口研究所糖鎖有機化学研究室の水野真盛室長,弘瀬友理子研究員との共同研究である.また,X線結晶構造解析は高エネルギー加速器研究機構構造生物学研究セ119