ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

桑原直之,加藤龍一,萬谷博,遠藤玉夫図4ABPOMGnT1 activity (nmol/h/μg)50403020100mockαDG(IIH6, lamininbinding epitope,GlcA-Xyl repeat)αDG(core)POMGnT1wt (L)wt (S)R129A (L)POMGnT1/CRISPRHEK293mockWTR129AD179AW473A/M477A15010075150100たMan-O-ペプチド複合体構造は結晶化によるアーティファクトによる部分が大きかったが,この結晶構造により,ステムドメインの機能を同定することができた.2.4ステムドメインのcore M3糖鎖認識POMGnT1がもつステムドメインの機能を明らかにできたが,core M3糖鎖(GalNAc-β3-GlcNAc-β4-Man(-6P)-O)のポストリン酸化修飾との関連はわからない.さらに,上記のcore M1部位のクラスタリングにおける機能モデD179A (L)R207A (L)D474A (S)M481A (S)N507A (S)W600A (S)W473A/M477A (S)75100部位特異的変異体の糖転移活性(A)とPOMGnT1ノックアウト細胞レスキュー実験(B).(Glycosyltransferaseactivities of POMGnT1 mutants(A)andthe effects of mutants POMGnT1 on laminin bindingepitope synthesis in POMGnT1-deficient cells.)アミノ酸番号62-660のコンストラクト(L)とアミノ酸番号248-660(S)の2つのコンストラクトをそれぞれHEK293T細胞で発現させ,活性測定を行った.75ルで疑問となってくるのは,どのように最初のcore M1部位を決定しているか?である.そこで我々はcore M3糖鎖もGlcNAc-β結合をもつため,ステムドメインがcoreM3糖鎖も認識するのではないかと考えた.GalNAc-β3-GlcNAc-β4-Man(-6P)-O-構造を結晶構造解析に用いるのに十分な量の合成は困難であったため,その部分構造のGalNAc-β3-GlcNAc-β-pNPとGlcNAc-β2-Man-O-ペプチド(太字でcore M3糖鎖と重なる部分を示している)との複合体結晶構造から,ステムドメインとcore M3糖鎖複合体構造モデルを提唱した(図3C).この計算モデルからステムドメインはこれまでの結果と同様に,GlcNAc-β結合によりcore M3糖鎖を認識することが示唆できた.αDGは小胞体においてPOMT1-POMT2複合体によるMan-O-部位の合成とGTDC2(POMGnT2)などによるcore M3の合成が行われる.その後ゴルジ体に移行し,POMGnT1によるcore M1糖鎖の合成と,FKTNなどによるポストリン酸化修飾やGlcA-Xylリピート構造が合成される.つまり,小胞体からゴルジ体に移行したαDGはMan-O-とcore M3糖鎖しかもっていない.そこで,ステムドメインがcore M3を認識することで,POMGnT1はαDGと正常に相互作用でき,最初のcore M1糖鎖を生合成できるようになるのではないかと考えている.さらにこのcore M3認識が疾患発症機構と関係しているのではないかと推測できる.2.5 core M3糖鎖認識とラミニン結合性糖鎖形成そこで,我々はこのステムドメインのcore M3糖鎖結合活性の失活がジストログリカノパチー発症の原因となっているのではないかと考えた.これまでにポストリン酸化修飾のうち,最初に働くFKTNとPOMGnT1が膜ドメインを介して相互作用していることを明らかにしている. 13)FKTNはcore M3糖鎖にリビトールリン酸を転移する糖転移酵素であり,ゴルジ体で働くポストリン酸化修飾経路の中で最初に働く糖転移酵素である(表1,図1).3)POMGnT1のステムドメインがcore M3を認識することから,POMGnT1がFKTNとcore M3の相互作用を媒介することによって,ポストリン酸化修飾を効率的に作動させると考えられる.そこで,我々はCRISPR/Cas9系によりPOMGnT1のノックアウト細胞を作製して,POMGnT1変異体導入による機能回復実験を行うことにより,ステムドメインのcore M3結合活性とポストリン酸化修飾との関連を明らかにした(図4).POMGnT1のノックアウトにより,MEB筋ジストロフィー疾患患者でみられているのと同様にIIH6抗原が消失した.IIH6抗体はラミニンが直接相互作用するGlcA-Xylリピート構造を認識することが知られている.そのため,IIH6抗原の有無により,ラミニン結合に必須なポストリン酸化修飾能を確認できる. 14)ノックアウト細胞にPOMGnT1野生118日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)