ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

POMGnT1の構造解析による筋ジストロフィー疾患発症機序解明で共通した構造をとっているのに対し,C-lobeで糖受容体を認識し糖転移酵素それぞれで異なる構造を保持しているという仮説に一致していた. 10)UDPおよびMan-O-ペプチドとの複合体の結晶では非対称分子中に二分子存在し,その二分子の間にもう一分子のMan-O-ペプチドが挟まっていた.このMan-O-ペプチドはステムドメインと相互作用しており,その相互作用の多くは水素結合によるものであった.さらにこの相互作用面はステムドメインおよび構造的に近縁なFAM3ファミリーでも保存されている領域であることから,ステムドメインは糖鎖を認識するレクチン活性をもっているのではないかと推測できた(図2C).2.3ステムドメインのcore M1糖鎖認識そこで,ステムドメインのみ(アミノ酸番号,92-250)を大腸菌発現系で発現精製を行い,FAC(frontal affinitychromatography)およびSPR(surface plasmon resonance)による網羅的な糖鎖結合活性探索を行った.その結果,Glc-β-pNP(p-nitrophenyl),GlcNAc-β-pNPおよびMan-βpNPに対して,Kdが1 mM以下の親和性をもつことが明らかになった.単純な比較はできないが,POMGnT1のMan-O-ペプチドに対する糖転移活性のKmは2~4 mM程表2ステムドメインの糖化合物および糖ペプチドに対する親和性.(Binding affinity between the stemdomain and sugar derivatives.)Stem domainLigandK d(mM)WTGlcNAc-β-pNP0.29±0.03WTMan-β-pNP0.43±0.05WTGlcNAc-α-pNP16.52±2.20WTMan-α-pNP17.80±2.80WTGlcNAc-β2-Man-α-peptide0.50±0.02WTGalNAc-β3-GlcNAc-β-pNP0.80±0.04WTGalNAc-β4-GlcNAc-β-pNPnot detectedR129AGlcNAc-β-pNPnot detectedD179AGlcNAc-β-pNPnot detected度であるため,糖pNPに対する親和性は十分高いと考えられる. 11)また,SPRによる解析の結果,β結合とα結合ではKdが20~30倍程度異なることを明らかにした(表2).次に我々は結合が確認できたMan-α-pNP,Man-β-pNP,GlcNAc-α-pNP,GlcNAc-β-pNPそれぞれとの複合体結晶構造を明らかにし,この親和性の違いを結晶構造解析によっても確認した.結晶構造中にあるpNP糖の結合様式の違いはほとんど見られなかったが,Arg207のみがβ結合の酸素原子と相互作用していた.このことからArg207を介してβ結合特異的にリガンドを認識していることを立体構造によって示した(図3A).さらにステムドメインはPOMGnT1が生成するGlcNAcβ2-Man-O-ペプチドとの十分な親和性をもち,その親和性にはGlcNAc-β構造が重要であることを示した(表2,図3B).このことからステムドメインはGlcNAc-β結合に特異性をもつ糖結合活性により,POMGnT1自身の酵素生成物(GlcNAc-β1,2-Man-O-,core M1糖鎖)を細胞内で認識していることが示唆された.この結果は,なぜPOMGnT1はαDG上の15カ所以上の集中的に存在するMan-O-部位を効率良くGlcNAc-β2修飾できるのかという疑問に答えることができると考えている. 12)つまり,POMGnT1は自身が生合成したcore M1糖鎖とステムドメインが相互作用することで,触媒ドメインが近傍に存在するMan-O-部位を認識しやすくしていると考えられる.このことはステムドメインおよび触媒ドメインがアミノ酸配列を特に認識していていないことと矛盾しない.もし,ステムドメインや触媒ドメインがアミノ酸配列特異性をもっていれば,core M1糖鎖のクラスタリングに阻害的に働いてしまうだろう(図5).ステムドメインのMan-α-pNPと図2に示したPOMGnT1の複合体結晶化に使用したMan-O-ペプチドのようなMan-α-構造とは親和性が著しく低い(Kd=10 mM以上)ことがわかった.そのため,結晶構造から示唆されApNPBManThrCMan(-6P)ThrR207ManR207GlcNAcR207GlcNAcR129D179GalNAc図3D179 R129D179 R129ステムドメインとGlcNAc-α-pNP(薄い灰色)もしくはGlcNAc-β-pNP(濃い灰色)複合体構造(A),GlcNAc-β2-Man-O-peptide(coreM1糖鎖)複合体構造(B),GalNAc-β3-GlcNAc-β4-Man(-6P)-O-peptide(coreM3糖鎖)複合体モデル(C).(CrystalstructureofthestemdomainincomplexwithGlcNAc-α-pNP(lightgray)orGlcNAc-β-pNP(dark gray)(A), GlcNAc-β2-Man-O-peptide(core M1 glycan)(B). Complex structure model of GalNAc-β3-GlcNAcβ4-Man(-6P)-O-peptide(coreM3 glycan)and stem domain(C).)日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)117