ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

桑原直之,加藤龍一,萬谷博,遠藤玉夫能を発見することで,core M3のポストリン酸化修飾の制御機構を明らかにした.6)A2.X線結晶構造解析に基づく機能解析2.1構造決定POMGnT1はゴルジ体に局在するII型膜タンパク質であり,N末端側に膜貫通領域をもつ.POMGnT1の全660残基の9割以上はゴルジ体内腔にあり,C末端側300残基程度が触媒ドメインであることが,アミノ酸配列上予想されていた.そのため,POMGnT1は膜貫通領域と触媒ドメインの間に250残基程度の長い機能未知の領域(ステムドメイン)があり,これは一般的なII型膜タンパク型の糖転移酵素には見られない特徴である.さらに触媒ドメインだけではなく,このステムドメインにもジストログリカノパチーと関連する変異が報告されていることから,なんらかの機能をもっているのではないかと予想できていた.7)そこで本研究では,ステムドメインも含めたタンパク質の結晶構造解析を開始した.最初に大腸菌および昆虫細胞で構築したが,結晶化までには至らなかった.そこで,哺乳類細胞発現系を用いることにより,膜貫通領域を削った可溶型POMGnT1の結晶化に成功した.哺乳類細胞用分泌型タンパク発現ベクターのpSecTag2/HygroベクターにPOMGnT1(アミノ酸番号,92-660)を組み込み,C末端にHRV3Cプロテアーゼ認識配列およびHisタグを付加した発現ベクターを作製した.このベクターを用いて,HEK293Tの安定発現株を作製し,大量培養・精製を行った.精製過程で,培地に分泌されたPOMGnT1(92-660)の半分程度がO型糖鎖修飾を受けていることがわかった.このO型糖鎖にはシアル酸が付いていると予想され,陽イオン交換カラムにより未修飾体と分離することができた.8)この精製ステップが結晶化に必須であり,O型糖鎖未修飾体でのみ結晶化することができた.位相はNaIを用いたSAD法により決定し,POMGnT1のアポ体結晶構造を明らかにした.さらにMn 2+,UDPおよび基質であるMan-O-ペプチドとの複合体結晶構造を共結晶させることにより,明らかにした(図2).2.2全体構造POMGnT1はN末側にステムドメイン,C末側に触媒ドメインの2つのドメイン構造をとっていた.この2つの間に50残基程度のリンカー領域があり,2つのドメインを繋いでいた.ステムドメインと触媒ドメインとの直接の相互作用は見られなかった.そのため当初の予想と異なり,それぞれのドメインは単独で機能することが示唆された(図2A).糖転移酵素(GT-Aファミリー)で保存されているDxDモチーフがある活性部位にUDPおよびMan-O-ペプチドの電子密度が観察できた.Man-O-ペプチドとPOMGnT1との相互作用は主に疎水性相互作用であり,特定の残基BC図2 Mn 2+,UDP,mannosyl peptide複合体の全体構造(A),触媒ドメインとmannosyl peptideとの相互作用(B)とステムドメインとmannosylpeptideとの相互作用(C).(Overall structure of Mn 2+ , UDPand mannosyl peptide complex(A), the interactionbetween mannosyl peptide and catalytic domain(B).the interaction between mannosyl peptide and stemdomain(C).)POMGnT1をcartoonモデルで描いており,薄い灰色が触媒ドメイン,濃い灰色がステムドメインを表している.mannosylpeptideおよび相互作用が見られた残基をstickモデルで示している.図C中ではmannosylpeptideと相互作用するステムドメインを濃い灰色のモデルで描いており,上側の薄い灰色のモデルは非対称単位中の別分子の触媒ドメインである.を認識するような相互作用様式ではなかった.このことは共同研究者らによるこれまでの実験結果と一致しており,POMGnT1のGlcNAc-β2修飾には配列特異性は見られないことを改めて示すことができた(図2B).触媒ドメインの全体構造はCAZYデータベースで同じGT13ファミリーに属しているN-acetylglucosaminyltransferaseI(GnT1)の構造と似通っていた.9)GnT1はオリゴマンノース糖鎖にGlcNAcを付加する酵素であり,POMGnT1がO型マンノースペプチドを基質とする点で異なるが,UDP-GlcNAcを基質(糖供与体)とする点では共通している.実際に構造を比較してみると,UDP-GlcNAcを認識するN末端側半分(N-lobe)の構造はとてもよく似ている反面,C末端側半分(C-lobe)ではあまり似ていない.このことは糖転移酵素(GT-Aファミリー)で考えられている,N-lobeが糖供与体を認識しGT-A間116日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)