ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

石田英子,大戸梅治,清水敏之においてもほとんど変わりがなく,彼らの表記に従うならば,いずれも直立型の構造をとっていた.ただし,筆者らのIZUMO1の結晶構造では非対称単位中に6分子のIZUMO1が存在しており,そのうちの1分子はAydinらが報告しているブーメラン型の構造に類似していた.また,Nishimuraらの結果によると,マウスIZUMO1単体の構造はいわゆる直立型の構造をとっていた. 14)これらの結果を合わせて考えると,IZUMO1の構造はβヘアピン構造部分をヒンジとしてある程度の可動性があることが考えられる.またAydinらは,IZUMO1のIg様ドメインよりもC末端側の領域を含む,残基番号22-268の結晶構造も解いている.これによると,254残基目より後ろの領域は電子密度が観測されず,ディスオーダーしていると考えられ,これによりIZUMO1が精子細胞膜上でフレキシブルに動く可能性があると考察している.また,Nishimuraらの報告においてもマウスIZUMO1単体は細胞外ドメイン全領域である残基番号1-312を発現させて結晶化させているが,電子密度が観測されたのは256残基目までだったことから,上記考察を支持している.図5N末端C末端IZUMO1単体構造の比較.(Comparison of IZUMO1structures.)Aydinらの報告したブーメラン型のヒトIZUMO1単体構造(PDB ID,5F4T)11)(黒色).筆者らの報告した直立型のヒトIZUMO1単体構造(PDB,5JK9)12)(灰色).Nishimuraらの報告した直立型のマウスIZUMO1単体構造(PDB ID,5B5K)14)(白色).5.配偶子接着後のイベントについてIZUMO1とJUNOが複合体を形成した後,精子と卵がどのようなメカニズムで融合を遂げるかについては不明な点が多い.現在のところ,IZUMO1が構造変化を起こして二量体を形成し,これに伴ってIZUMO1とJUNOが解離するという仮説が立てられている19)(図6).しかし,超遠心分析の結果,IZUMO1単体は高濃度条件下で二量体を形成するが,IZUMO1-JUNOの1対1複合体はそれ以上の多量体を形成しないことが明らかになった.このため,今回のIZUMO1-JUNO複合体の構造は,配偶子接合の初期段階の状態であると考えられ,受精の過程においては,複合体がさらに構造変化を起こすと予想される.JUNOとの結合に重要なIZUMO1のβヘアピン構造は,隣り合うドメインとジスルフィド結合で繋がれていることでその構造を保持している.IZUMO1は還元剤存在下で凝集体を形成したことから,還元剤への感受性が高いことが示された.一方,JUNOは分子中で8つのジスルフィド結合を形成しているが,還元剤の影響は確認卵子JUNO卵子卵子受精卵?IZUMO1精子精子精子図6IZUMO1とJUNOの複合体形成IZUMO1の構造変化,JUNOの解離,未知分子の介在膜融合,JUNOの囲卵腔への脱落受精におけるIZUMO1とJUNOの役割.(Model for IZUMO1-JUNO interaction in fertilization.)精子表面のIZUMO1と卵表面のJUNOが結合することで精子と卵が接着する.その後,IZUMO1の構造変化に伴ってJUNOが解離し,未知分子の介在により膜融合が達成されると予想される.受精卵の形成後,JUNOは速やかに囲卵腔中の小胞へと脱落する.112日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)