ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

ページ
68/100

このページは 日本結晶学会誌Vol59No2-3 の電子ブックに掲載されている68ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

石田英子,大戸梅治,清水敏之abcIZUMOドメインβヘアピン構造N末端C25-C152C22-C149C135-C159JUNOL1NAGFRβ-葉酸L3L2N末端疎水性ポケット葉酸C末端L1Y72Y97L3R154F74F78W190S193L2A93F194Ig様ドメインC139-C165C182-C233NAGY76R119Y101H151W187S190D97Y191図2C末端C末端N末端ヒトIZUMO1とJUNOの構造.(Structures of IZUMO1 and JUNO.)(a)ヒトIZUMO1単体の構造,(b)ヒトJUNO単体(上)とFRβ-葉酸複合体(PDB ID,4KMZ)15)(下)の構造,(c)ヒトJUNO単体の疎水性ポケット(上)とFRβ-葉酸複合体の葉酸結合ポケット(下)の拡大図.FRsと類似した球状の全体構造をしており(図2b),8本のαへリックス,4つのβ鎖と8つのジスルフィド結合で構成されていた.このジスルフィド結合はFRs, 15),16)リボフラビン結合タンパク質, 17)JUNOに共通して見られた.いくつかのループ領域はマウスJUNOにおいてはディスオーダーしていたが,ヒトJUNOにおいては,非対称単位の分子すべてにおいて構造をとっていた.一方,FRsにおいて阻害ループにあたるヒトJUNOのL2ループはディスオーダーしており,これはほかの哺乳動物種やFRsには見られない6~7残基の挿入によるものと考えられる.JUNOには,FRsにおける葉酸結合ポケットに相当する疎水性ポケットが存在していたが(図2c),葉酸との結合能は有していない.7)JUNOの疎水性ポケットは450 A 3の容積で,FRsとJUNOではポケット内に存在する疎水性残基はほとんど保存されていた.一方,FRβは,それらによる疎水性相互作用に加えて,葉酸のプテリン部位とD97,R119,H151,S190を介して複数の極性相互作用を形成しているが, 15),16)これらの残基はS190を除いてJUNOでは保存されていない.さらに,FRsとは異なり,JUNOのW190の側鎖がポケットを狭める形で配向していた.これらの違いによりJUNOは葉酸結合能をもたないものと考えられた.4.3 IZUMO1-JUNO複合体の構造IZUMO1とJUNOは結晶中で1対1の複合体を形成していた(図3a).結晶化のための糖鎖切断の有無やリジン残基のアルキル化などのサンプルの状態および結晶化条件に違いがあったにもかかわらず,IZUMO1-JUNO複合体は基本的に同じ構造をしていた.また複合体中のIZUMO1とJUNOは,単体の場合と基本的に同じ構造をしており,IZUMO1のβヘアピン構造を中心とする部分とJUNOの疎水性ポケットの裏側とで結合界面を形成していた.IZUMO1とJUNOは842 A 2の面積の結合面を形成していた.主に疎水性相互作用とファンデルワールス相互作用によって結合しており,それらに加えて6つの水素結合が結合に寄与していた.IZUMO1のW148がJUNOのL81,L82,M83,P84残基と,JUNOのW62がIZUMO1のR160,K161,S162,Y163残基と互いに相補的な形状で結合界面を形成しており(図3b),これらのTrp残基はすべての種で保存されていた.JUNOのL1およびL3ループ領域がIZUMO1との結合に関与していた.その際,L1ループ領域において保存されているG80-L81モチーフ部分がIZUMO1表面に相補的な形状で相互作用できるように構造変化を起こし,IZUMO1のM75,V77,Y134,W148,H157残基と新たに相互作用を形成していた.実際,これらの相互作用に関与する残基のうちIZUMO1のW148,JUNOのW62およびL81への変異導入により,JUNOとの結合が低下することを確認した.精子と卵子の認識における,IZUMO1-JUNO複合体の相互作用の機能的関連性を確かめるために,マウスIZUMO1の野生型もしくはJUNOとの相互作用面の残基の変異体を発現させたCOS-7細胞を用いて,マウス卵母細胞との結合試験を行った.その結果,変異体IZUMO1を発現させた場合,卵母細胞に接着するCOS-7細胞の数は減少し,特に保存された残基(W148,H157,R160)の変異においては,接着する細胞数が著しく減少した.これは,IZUMO1-JUNO複合体の構造解析の結果や110日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)