ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

受精にかかわる精子融合因子IZUMO1と卵子受容体JUNOの認識機構の解明した.6)質量分析の結果,この因子は精子の細胞膜上に局在するI型膜貫通タンパク質で,縁結びで有名な出雲大社に因んでIZUMO1と命名された.その後10年近くにわたって,IZUMO1に結合する卵側の受容体は特定されなかったが,2014年,BianchiらによってIZUMO1のカウンターレセプターJUNOがマウス卵子表面から見出された.7)JUNOはGPIアンカー型のタンパク質で,はじめそのアミノ酸配列相同性から葉酸受容体(folate receptor:FR)のファミリーの一員と考えられ,FR4と名付けられていた.しかしこのタンパク質が葉酸結合能をもたないことが示され,7)ローマ神話で結婚と出産を司る女神の名に因み,改めてJUNOと命名された.遡ってみると,IZUMO1の発見よりも以前の1999年,マウス卵表面にPI-PLC(phosphatidylinositol-specific phospholipase C)を処理することで膜融合が起こらなくなること,8)また2003年には卵特異的にGPIアンカー合成酵素遺伝子を欠損させることで膜融合が起こらなくなること9)が報告されていた.このように,かねてより卵表面上のGPIアンカー型タンパク質は配偶子融合の候補因子の1つに挙げられており,JUNOの発見はその推測の証明となるものであった.IZUMO1欠損マウスの精子と正常な卵との間に受精は起こらず,同様にJUNO欠損マウスの卵と正常な精子との間にも受精は起こらない.さらに,IZUMO1とJUNOをそれぞれ培養細胞で発現させたときには融合が起こらないこと7)から,IZUMO1とJUNOは精子と卵の融合よりもむしろ接着にかかわっている可能性が高いと考えられた.両者の間の特異的な認識機構の解明が待望される中,JUNOの発見から2年後の2016年2月,最初にHanらによってマウスJUNO単体の結晶構造が報告された. 10)同年6月にAydinらと筆者らのグループがヒトIZUMO1単体,ヒトJUNO単体,ヒトIZUMO1-JUNO複合体, 11),12)7月にKatoらがマウスJUNO単体, 13)Nishimura14らがマウスIZUMO1単体)の結晶構造を相次いで報告した.基本的にはすべて同様の結果を示しており,互いのデータを強く裏付けていた.3.精製と結晶化ヒトIZUMO1とJUNOの細胞外領域を,それぞれ単独でショウジョウバエS2細胞においてBiPシグナル配列を用い分泌タンパク質として発現させた.ProteinAタグを用いたアフィニティー精製後,タグおよび糖鎖の切断,ゲルろ過カラムクロマトグラフィーのステップで精製した.IZUMO1とJUNOの細胞外領域はそれぞれ残基番号22-292,20-250と予想されており,発現領域の検討を行った結果,IZUMO1は残基番号22-255,JUNOは残基番号20-228を用いたときに良好な複合体結晶が得られた.相互作用解析の結果,IZUMO1とJUNOの結合比は1対1であったことから,複合体の結晶は精製タン日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)パク質を等モル量混合し,共結晶化法により得た.ヒトIZUMO1,JUNOともに一カ所の糖鎖結合可能部位を有するが,糖鎖は結晶化の障壁となった.筆者らは糖鎖未切断体についても結晶化を行ったが,切断体よりも結晶化しにくい傾向にあった.同時期にIZUMO1とJUNOの構造を発表したほかの研究グループも,精製過程で糖鎖を切断するか, 10),11),14)もしくは糖鎖結合部位と予測されるAsn残基をAsp残基に変異させることで結晶を得ている. 13)筆者らは複合体結晶の高分解能化を目指し,リジン残基のアルキル化も検討した.IZUMO1とJUNOの糖鎖切断体および未切断体に対して,メチル化,エチル化,イソプロピル化を行い,種々の組み合わせで結晶化を行った.リジン残基のアルキル化は,分解能に劇的な改善はもたらさなかったものの,未修飾タンパク質とは異なる条件で結晶が得られた.精製タンパク質を用いて,性状解析および相互作用解析を行った.ゲルろ過法および超遠心分析の結果,IZUMO1とJUNOはいずれも溶液中で単量体として存在していた.等温滴定型カロリメトリー法を用いた相互作用解析の結果,IZUMO1とJUNOは1対1の結合比で,解離定数91 nMで結合することが示された.超遠心分析の結果からも,IZUMO1-JUNOが1対1の複合体を形成することが示された.また,糖鎖の有無は結合に影響しなかった.4.IZUMO1とJUNOの構造4.1 IZUMO1単体の構造ヒトIZUMO1は長辺が約90 Aのロッド状の構造をしており,N末端側の4本のへリックスバンドルからなるIZUMOドメイン,中央のβヘアピン構造,C末端側のIg様ドメインから構成されていた(図2a).IZUMO1には,哺乳類で保存されている10個のCys残基があり,すべてジスルフィド結合を形成していた.ジスルフィド結合の位置は,波長2.7 Aで収集した回折強度データの異常分散差フーリエマップからも確認された.IZUMOドメインとβヘアピン領域はそれぞれ,C22-XX-C25とC149-XX-C149というC-XX-Cモチーフをもち,この配列は哺乳類で保存されていた.C22-C149およびC25-C152はIZUMOドメインとβヘアピン構造を,C139-C165はβヘアピン構造とIg様ドメインを架橋していた.これらのジスルフィド結合により,3つのドメインは互いに独立な配向をとれるのではなく,一定の配向を保持した一続きのロッド状構造を形成しているものと考えられた.また,C135-C159はβヘアピン構造内部,C182-C233はIg様ドメイン内部でジスルフィド結合を形成していた.4.2 JUNO単体の構造ヒトJUNOは配列相同性の高い(~60%)葉酸受容体109