ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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日本結晶学会誌Vol59No2-3

日本結晶学会誌59,108-113(2017)最近の研究から受精にかかわる精子融合因子IZUMO1と卵子受容体JUNOの認識機構の解明東京大学大学院薬学系研究科石田英子,大戸梅治,清水敏之Hanako ISHIDA, Umeharu OHTO and Toshiyuki SHIMIZU: Structure of IZUMO1-JUNO Reveals Sperm-Oocyte Recognition during Mammalian FertilizationFertilization, the crucial step in sexual reproduction, requires the fusion of haploid sperm andegg to create a genetically distinct offspring. Despite many studies on mammalian fertilization,the molecular mechanisms underlining the membrane fusion remain largely unknown. At present,IZUMO1 on the sperm surface and JUNO on the egg surface are known as the only protein pairessential for fertilization. In this review, we focus on the crystal structures of human IZUMO1, JUNOand IZUMO1-JUNO complex. These structures reveal the molecular mechanism of mammaliangamete recognition, and provide information for development of non-hormonal contraceptive agents.1.はじめに生物は生殖によって自己と同種の新しい個体を生産し,死亡による個体数の減少を超えて種を維持し続けている.哺乳類の生殖は,雄と雌で定義される二性による有性生殖であり,減数分裂によって生じたそれぞれの配偶子(精子と卵)が受精という核融合を通じてゲノムの混合と組換えを起こし,遺伝的に新たな個体を作り出す.1)-4)有性生殖を行う生物は,世代を重ねることで種内の遺伝的多様性を高め,周辺環境によって淘汰されることで生存に有利な形質を引き継ぎ,不利な形質を排除して繁栄してきた.受精は有性生殖においてきわめて重要な生命現象であり,そのメカニズム解明のために多くの研究が行われてきた.受精は,精子と卵の相互認識,細胞間の特異的な接着,そして細胞膜融合という一連のステップを経て達成される(図1).哺乳類の受精は多くの分子によって複雑に制御されていると考えられているが,とりわけその最終段階である膜融合の分子メカニズムに関する知見は,現在も乏しい.IZUMO1とJUNOは,精子と卵の接着を媒介する現在わかっている唯一のタンパク質ペアである.IZUMO1とJUNOの特異的な認識機構の解明は,基礎研究に新たな理解をもたらすだけでなく,不妊診断治療や非ホルモン性避妊薬の開発など,医学的応用も期待される.本稿では,ヒトIZUMO1とヒトJUNOの細胞外領域の各単体および複合体の立体構造を明らかにした筆者らの研究を紹介し,受精のプロセスにおけるIZUMO1とJUNOの配偶子相互認識機構について解説する.後述するが,ほかのグループも同時期にIZUMO1とJUNOの結晶構造を報告しており,筆者らの結果と合わせて紹介したい.精子透明体透明体の通過囲卵腔卵丘細胞卵子細胞膜融合細胞膜接着多精拒否図1哺乳類の受精の模式図. 4)(Scheme of mammalianfertilization.)精子はヒアルロン酸マトリックスに包埋した卵丘細胞層を進入していく.卵の細胞膜の外側には透明体と呼ばれる糖タンパク質の層があり,精子はこの層を分解しながら通過して囲卵腔に至る.その直後,精子が卵の細胞膜に接着し,融合する.受精が成立すると,直後に多精拒否機構が働き,2つめ以降の精子は透明体を通過できなくなる.2.IZUMO1とJUNOの発見1987年にOkabeらによって,精子と卵の膜融合を阻害する抗マウス精子特異的モノクローナル抗体OBF13が作製されたが,5)この抗体が認識する抗原は長い間不明なままであった.2005年,同グループがこの抗体を用いて,精子表面上に存在する受精に必須の因子を同定108日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)