ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

光活性化アデニル酸シクラーゼ合成酵素OaPACの活性化機構解明その結果,両者の活性量はおよそ100倍の差があることが明らかになり,cAMPの広範囲な応用が期待され,有用な遺伝子資源になると考えられる.4.2神経細胞の制御光遺伝学的手法において,神経細胞の構造形成や神経回路形成のメカニズムを解明するためには,イオンチャネルだけでなく,細胞内シグナル伝達系を時空間的に制御する方法が必要となる.また,近年では神経軸索の分岐・伸長の誘導にはcAMPの介在が必須であると報告されている. 14), 15)そこでわれわれはOaPACをマウスの海馬の神経細胞に発現させ,神経細胞の軸索の分岐・伸長の光操作を試みた.その結果,青色光を30分照射した細胞には照射していないものに比べ,軸索の分岐・伸長が著しく促進されることが明らかになった(図4b).このことから,OaPACを用いることで神経細胞の構造形成を光により制御することが可能であり,神経疾患研究への応用が期待される.5.おわりに光活性化アデニル酸シクラーゼ(PAC)はミドリムシから発見され,長年の間光反応機構と構造は不明であった.近年,シアノバクテリア由来のOscillatoriaから見出されたOaPACについて大腸菌からの単離精製・結晶化・構造解析に成功し,世界で初めて構造に基づいてPACの活性化機構を論じた.また,光遺伝学の応用への道も少し述べて来た.近年,同じく植物プランクトン起源であるチャネルロドプシンを利用することによる神経興奮の光制御,いわゆる「光遺伝学,optogenetics」は急速に普及した.OaPACを利用したcAMPを介する生体機能光制御も概念上同類とみなされるものではあるが,はるかに広範で多彩な生命活動の光制御につながり,血管新生・脳病変原生・神経回路ネットワーキング・記憶などの光発生医学現象の制御・解明・治療・創薬スクリーニングという広大な新分野の開拓を先導するものであり,かつ独創的な新領域の研究分野であると言える.今後,さまざまな光活性化タンパク質の創出とそれに基づく広範で多彩な応用展開につながることが期待できる.謝辞PFのBL-17AおよびNW-12Aのスタッフの皆様のデータ測定の技術的なサポートにより構造決定まで至りました.この場をお借りしてお礼を申し上げます.また,東邦大学薬学部薬品物理分析学教室の伊関峰生教授,生自治医科大学の柴山修哉教授,浜松ホトニクス㈱中央研究所の松永茂博士,東京大学大学院薬学系研究科の小山隆太准教授をはじめ多くの方にご支援やご指導を賜りました.この場をお借りして厚くお礼申し上げます.日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)文献1)M. Iseki and T. Takahashi: in“Optogenetics”, H. Yawo, H. Kandoriand A. Koizumi, eds, pp.17-29, Springer Japan(2015).2)M. Iseki, S. Matsunaga, A. Murakami, K. Ohno, K. Shiga, K.Yoshida, M. Sugai, T. Takahashi, T. Hori and M. Watanabe: Nature415, 1047(2002).3)M. H. Ryu, O. V. Moskvin, J. Siltberg-Liberles and M. Gomelsky: J.Biol. Chem. 285, 41501(2010).4)M. Stierl, P. Stumpf, D. Udwari, R. Gueta, R. Hagedorn, A. Losi,W. Gartner, L. Petereit, M. Efetova, M. Schwarzel, T. G. Oertner, G.Nagel and P. Hegemann: J. Biol. Chem. 286, 1181(2011).5)H. Yasukawa, A. Sato, A. Kita, K. Kodaira, M. Iseki, T. Takahashi,M. Shibusawa, M. Watanabe and K. Yagita: J. Gen. Appl. Microbiol.59, 361(2013).6)M. Gomelsky and G. Klug: Trends Biochem Sci. 27, 497(2002)7)M. Ohki, K. Sugiyama, F. Kawai, H. Tanaka, Y. Nihei, S. Unzai,M. Takebe, S. Matsunaga, S. Adachi, N. Shibayama, Z. Zhou, R.Koyama, Y. Ikegaya, T. Takahashi, J. R. Tame, M. Iseki and S. Y.Park: Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 113, 6659(2016).8)S. Masuda and C. E. Bauer: Cell 110, 613(2002).9)S. Ito, A. Murakami, K. Sato, Y. Nishina, K. Shiga, T. Takahashi, S.Higashi, M. Iseki and M. Watanabe: Photochem. Photobiol. Sci. 4,762(2005).10)S. Anderson, V. Dragnea, S. Masuda, J. Ybe, K. Moffat and C.Bauer: Biochemistry 44, 7998(2005).11)A. Kita, K. Okajima, Y. Morimoto, M. Ikeuchi and K. Miki: J. Mol.Biol. 349, 1(2005).12)C. Steegborn, T. N. Litvin, L. R. Levin, J. Buck and H. Wu: Nat.Struct. Mol. Biol. 12, 32(2005).13)K. Deisseeroth: Nat Methods. 8, 26(2011).14)H. J. Song and M. -m. Poo: Curr. Opinion Neurobiol. 9, 355(1999).15)Z. Zhou, K. F. Tanaka, S. Matsunaga, M. Iseki, M. Watanabe, N.Matsuki, Y. Ikegaya and R. Koyama: Sci. Rep. 5, 19679(2016).プロフィール大木規央Mio OHKI横浜市立大学大学院生命医科学研究科構造創薬科学研究室Drug Design Laboratory, Yokohama City University〒230-0045横浜市鶴見区末広町1-7-291-7-29 Suehiro, Tsurumi, Yokohama, Kanagawa 230-0045, Japane-mail: mio-k67@tsurumi.yokohama-cu.ac.jp最終学歴:横浜市立大学大学院国際総合科学研究科博士課程(2016年修了),博士(理学)専門分野:構造生物学・生物学研究テーマ:センサータンパク質の構造生物学朴三用Sam-Yong PARK横浜市立大学大学院生命医科学研究科構造創薬科学研究室Drug Design Laboratory, Yokohama City University〒230-0045横浜市鶴見区末広町1-7-291-7-29 Suehiro, Tsurumi, Yokohama, Kanagawa 230-0045, Japane-mail: park@tsurumi.yokohama-cu.ac.jp最終学歴:大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程(1995年修了)専門分野:構造生物学・生化学研究テーマ:疾患由来タンパク質の構造生物学107