ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

光活性化アデニル酸シクラーゼ合成酵素OaPACの活性化機構解明り,フラビン色素(FAD)を結合する光センシングドメインとATPをcAMPに変換する触媒ドメインおよびその両者をつなぐリンカー領域をもつ(図1).このフラビン結合ドメインは,クリプトクロム(Cryptochrome)またはフォトトロピン(Phototropin)のものとは一次構造における相同性が異なることから,新規の青色光受容機能を有すると考えられ,BLUF(sensors of Blue-Light UsingFAD)と名付けられた.6)本稿では,OaPAC光活性化アデニル酸シクラーゼの原子レベルでの解析から,光活性化メカニズムに関する最新の知見を紹介したい.7)2.シアノバクテリア由来の光活性化アデニル酸シクラーゼOaPAC2.1 OaPACの発現,精製,結晶化シアノバクテリア由来OaPAC(1-366残基)の遺伝子を,N末端の領域にHisタグとFactorXaサイトが付加されたpColdⅠベクターに挿入した.作製したプラスミドを用いてE. coli ArcticExpress株に形質転換し,培養,精製を行い,1 L培地当たり,約3 mgの高純度なサンプルを得た.結晶化スクリーニングキットにより,OaPACの結晶化条件を探索し,最終的に100 mMクエン酸ナトリウムpH=5.0,10%PEG20Kにより,微結晶を得ることができた.しかし,構造解析に用いられる単結晶ではなく,さらに良好な結晶を得るために,結晶化用添加剤キット(Additive Screen Kit)を用いて結晶化条件の最適化を行った.その結果,最終的に10 mMマロン酸ナトリウムpH=7.0,100 mMクエン酸ナトリウムpH=5.0,10%PEG20Kをリザーバー溶液として用い,結晶化温度20℃にて,大きさ約30×50×100μmの結晶を得ることができた.結晶の空間群はP2 12 12 1,a=83.76 A,b=99.78 A,c=122.87 Aであり,分解能3.1 A,結晶学的な非対称単位(VM=3.15 A 3 /Da,溶媒率=61%)当たり2分子が存在することが確認された.OaPAC構造は類似の構造が存在せず,得られた結晶の位相問題を解決するため,さまざまな重原子同型置換結晶を作製した.最終的に10 mM-EMTS(ethylmercurithiosalicylate,Thimerosal),24時間ソーキングを行った結晶を用いて,分解能3.3 Aの良好なデータを収集することができ,位相の決定をすることができた.ATP非存在下の条件で得られたClosed状態の結晶に関しては,最終的に分解能2.9 Aで解析することができた.また,同条件にて結晶化を行った結果,5 mM ATP-analog(α,β-methylene ATP:ApCpp),2 mM MgCl 2を添加することにより,Open状態の結晶を得ることができた.Open状態の結晶は分解能1.8 A,空間群P6 122に属し,非対称単位中に1分子のOaPACが存在した.2.2 OaPACの全体構造OaPACは,フラビン結合部位であるBLUFドメイン日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)とアデニル酸シクラーゼ触媒ドメインの2つの機能ドメインからなる.BLUFドメインを有するタンパク質は450 nm付近にフラビンに由来する吸収極大をもち,光照射に伴い吸収スペクトルが数nm長波長側にシフトすることが知られている.8),9)大腸菌に発現させて単離精製したOaPACはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を保有しており,ラピッドスキャン分光測定により,光照射時のFMNの吸収変化を見ると,図2に示したように442 nmから445 nmにレッドシフトを示し,光照射終了後約20秒程度で完全に緩和される.この反応のキネティクスはLight状態からDark状態への2成分の反応を示唆する.点線の表示はLightとDarkの差スペクトルを表す(図2a).われわれはOaPACについて結晶化条件を変えることにより2種類の異なる結晶を得ることができ,それらの構造解析を行った(図2a).OaPACの全体構造は,12本のαヘリックスと13本のβシートからなっている.N末端にはフラビンを結合したBLUFドメインとC末端側にはアデニル酸シクラーゼ触媒(AC)ドメインからなり,ダンベル型となっている(図2b).また,それぞれのドメイン同士は隣り合わせになっていることが明らかとなった.BLUFの保有するフラビン分子とアデニル酸シクラーゼの活性部位との距離は約48 Aと離れていることが確認された.さらに,異なる結晶化条件に基質ATPのアナログApCpp分子の有無によりACドメインが開いた状態(Open)になっている構造(空間群P2 12 12 1)と閉じた状態(Closed)になっている構造(空間群P6 122)がそれぞれ存在することがわかった.OaPACのOpen状態とClosed状態の各ドメイン構造を比較すると,BLUFドメインではほとんど差異が見られなかったが,ACドメインのCαの変化が約2 Aほど開いている.また,分子間でのファンデルワールスコンタクトの面積はOpen状態では3,660 A 2,Closed状態では4,020 A 2となっており,BLUFドメインのファンデルワールスコンタクト面積は変化せず,ACドメインが変化し,開閉していることが明らかになった.2.3 BLUFドメインOaPACのBLUFドメインは,ほかのBLUFドメインタン10), 11パク質)と同様に2本のαヘリックスと5本のβシートからなる典型的なBLUF構造になっているが,既知のBLUFドメインは単量体であるのに対し,OaPACは二量体を形成している(図3a).われわれは,変異導入によりBLUFドメインを欠失させたOaPACを作製し,超遠心分析(Analytical Ultracentrifugation)でACドメインの安定性を測定した結果,不安定で二量体を形成しなくなっていた.つまり,OaPACのBLUFドメインが二量体を形成することで,ACドメインの安定化につながる重要な役割をしていることが明らかになった.また,OaPACの103