ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

リボソーム由来ペプチドのN末端をキャッピングする新規ペプチドリガーゼの構造基盤して結合することが示唆された.7.まとめ筆者らは,非リボソーム系ペプチド合成酵素やリボソーム翻訳系翻訳後修飾とは異なるペプチドライゲースとリボソームによる共同的な新規ペプチド生合成機構を担うPGM1の結晶構造解析に初めて成功した.本構造解析により,PGM1は2-グアニジノ基を選択的に認識するN末端側基質結合部位をもつために,鎖長異なるグアニジノ基や構造の異なるL-アミノ酸を基質として受け入れないことが解明された.さらに,PGM1には他のATP graspタンパク質には見られない特徴的な広いキャビティと深いクレフトをもち,この構造は構造や鎖長の異なる広範なペプチド基質に対する特異性を示すために重要な構造要素であることが示唆された.PGM1は放線菌S. cirratusが生産する抗生物質PGMを形成するキー酵素である.最近,Micromonospora sp.から得られたPGM1のオーソログがL-アミジノ-ArgをLeu-PheのN末端にキャッピングすることが報告された.9)このオーソログとPGM1ではN末端キャッピング基質が異なることから,オーソログとの構造-機能相関解析によりN末端キャッピング基質の認識機構の相違点が明らかになれば,人工的なN末端キャッピング基質をさまざまな鎖長と構造のペプチドに対し付与する人工酵素の開発も可能となる.このような技術で得られたペプチドは抗生物質の創製だけではなく,生理ペプチドに対してエキソ型ペプチド分解酵素からの保護や,蛍光剤をN末端に付加することでプロテオーム解析のタグや生理現象のモニタリングなどの診断薬への応用へと繋がることが期待される.謝辞本稿で紹介した研究は当研究室の森田洋行教授と,北海道大学大学院工学研究院の大利徹教授,野池基義博士,佐藤康治博士,雄谷洸一氏,佐々木郁雄博士,福井県立生物資源学部の浜野吉十准教授,丸山千登勢博士,国立感染研の石川淳室長との共同研究の成果です.また,PGM1の精製および結晶化は当研究室を卒業した大瀧翔太氏の尽力によるものです.X線回折データ収集は,放射光施設PFのビームラインスタッフにお世話になりました.この場をお借りして心より深くお礼申し上げます.文献1)J. D. Newman and M. G. Cragg: J. Nat. Prod. 79, 629(2016).2)V. Miao, M. Coeffet-Legal, P. Brina, R. Brost, J. Penn, A. Whiting,S. Martin, R. Ford, I. Parr, M. Bouchard, J. C. Silva, K. S. Wrigleyand H. R. Baltz: Microbiology 151, 1507(2005).3)L. W. Kelly, L. Pan and C. Li: J. Am. Chem. Soc. 131, 4327(2009).4)K. Suzukake-Tsuchiya and M. Hori: J. Antibiotics 41, 675(1988).5)M. Noike, T. Matsui, K. Ooya, I. Sasaki, S. Ohtaki, Y. Hamano, C.Maruyama, J. Ishikawa, Y. Satoh, H. Ito, H. Morita and T. Dairi:Nat. Chem. Biol. 11, 71(2015).6)H. Chen, C. C. Tseng, B. K. Hubbard and C. T. Walsh: Proc. Natl.Acad. Sci. U.S.A. 98, 14901(2001).7)W. Wang, T. J. Kappock, J. Stubbe and S. E. Ealick: Biochemistry37, 15647(1998).8)G. Sampei, S. Baga, M. Kanagawa, H. Yanai, T. Ishii, H. Kawai, Y.Fukai, A. Ebihara, N. Nakagawa and G. Kawai: J. Biochem. 148,429(2010).9)Y. Ogasawara, J. Kawata, M. Noike, Y. Satoh, K. Furihata and T.Dairi: ACS Chem. Biol. 11, 1686(2016).プロフィール松井崇Takashi MATSUI富山大学和漢医薬学総合研究所Institute of Natural Medicine, University of Toyama現所属:東北大学大学院生命科学研究科Graduate School of Life Sciences, Tohoku University〒930-0194富山県富山市杉谷26302630 Sugitani, Toyama, Toyama 930-0194, Japane-mail: matsui@inm.u-toyama.ac.jp専門分野:構造生物学現在の研究テーマ:抗菌標的タンパク質と抗感染症活性分子生合成酵素の構造生物学趣味:サッカー観戦(鹿島アントラーズ),ドライブ日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)101