ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

松井崇ンを実施し,その結合様式を比較した.その結果,これらのN末端基質のカルボキシル基はγ-リン酸およびArg335側鎖と水素結合可能な距離に位置した.また,(3,5-ジヒドロキシ-4-ヒドロキシメチル)フェニル基は短絡化したβ11-β12ループによって形成され,拡張された領域に結合した.一方,グアニジノ基はGlu255,Asp318,Ser316,Thr337,Ser339の側鎖からなるポケットに結合していた(図6a).このモデル構造から触媒残基であるArgの変異体Arg335Q/N/MやN末端基質結合部位を形成するSer316D変異体について酵素活性を測定した結果,これらの変異体は活性がほぼ消失した(表1).また,N末端基質のグアニジノ基結合部位のGlu255D/SやSer339A変異体もほとんど活性を示さなかった(表1).このことから,Glu255,Ser316およびSer339は基質中の2-グアニジノ基と結合し,一方,3-グアニジノ酢酸や4-グアニジノ酢酸,さらに,アミノ基とは鎖長や構造が異なるため相互作用できずに基質として受け入れられないことが明らかとなった.また,このモデル構造からPGM1のArg335が触媒残基であり,N末端基質のカルボキシルアニオンのATP中のγ-リン酸に対する求核攻撃を引き起こすと予想できた.図6表1PGM1とN末端キャッピング基質,C末端ペプチドとのドッキングモデル.(Model structures of PGM1with N-terminal capping substrate and C-terminalnucleophile peptide.)(a)(S)-2-グアニジノ-2-(3,5-ジヒドロキシ-4-ヒドロキシメチル)フェニル酢酸とATP,(b)NVKDRとリン酸化した(a)で用いたN末端基質とADP,(c)NVKDGPTとリン酸化した(a)で用いたN末端基質とADPとの複合体モデル構造を示す.PGM1と変異酵素の生成物における相対活性.(Relativeactivity of PGM1 wild type and mutant enzymes.)変異酵素相対活性(%)NVKDR NVKDGPT野生型100100Ala14R5155Ala14Q5354Ala14L9596Ser190L2319Ser190A5755Glu255D1617Glu255S9.77.5Ser316D0.50.5Arg335M1.52.0Arg335Q1.51.7Arg335N1.21.2Ser339A7.77.66.Docking simulationと変異酵素の機能解析によるC末端ペプチド基質結合様式の推定次に,C末端ペプチドの結合様式を推定するために,PGM1とC末端ペプチドとのドッキングシミュレーションを実施した.(S)-2-グアニジノ-2-(3,5-ジヒドロキシ-4-ヒドロキシメチル)フェニル酢酸とのドッキングモデル(図6a)から,PGM1-ADP-リン酸化(S)-2-グアニジノ-2-(3,5-ジヒドロキシ-4-ヒドロキシメチル)フェニル酢酸複合体モデルを作製し,本モデルに対し2種類のペプチド(NVKDRとNVKDGPT)とのドッキングシミュレーションを実施した.その結果,ペプチドのN末端であるアスパラギンのアミノ基がリン酸化(S)-2-グアニジノ-2-(3,5-ジヒドロキシ-4-ヒドロキシメチル)フェニル酢酸のリン酸基とArg335側鎖近傍に位置するモデルが得られた(図6b,c).さらに,このモデルからNVKDRペプチドはArg335近傍の広いキャビティからNドメインとBドメインからなるクレフト方向へ伸長し,C末端がクレフト中のAla14,Glu15,Thr17近傍に位置すると予想された.また,NVKDGPTペプチドのC末端Thrはクレフトを構成するGln186とSer190近傍に位置すると予想された.そこで,これらペプチドのC末端が位置すると予想されたクレフト中の残基に対して点変異体(Ala14L/Q/RおよびSer190A/L)を調製し,点変異体に対する生成物の生成量を比較した.その結果,NVKDRに対するSer190AとSer190Lの野生型に対する相対活性は43%と77%減少した.NVKDGPTに対してはより活性に影響を及ぼし,それぞれ45%と81%減少した.また,NVKDRとNVKDGPTに対する嵩高いアミノ酸への変異であるAla14R/Qの相対活性はそれぞれ53%および53%以下に低下するが,嵩低いアミノ酸への変異であるAla14Lではどちらのペプチドに対しても野生型とほぼ同様の活性が得られた(表1).これらの結果から,クレフトに位置するAla14やSer190はペプチドの結合に関与する残基であり,ペプチドC末端はPGM1に特徴的に形成されるNおよびBドメインからなる長く深いクレフト内へ伸長100日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)