ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

ページ
57/100

このページは 日本結晶学会誌Vol59No2-3 の電子ブックに掲載されている57ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

リボソーム由来ペプチドのN末端をキャッピングする新規ペプチドリガーゼの構造基盤と3.7 Aのr.m.s.d.値を示し,PGM1-AMP構造はクローズ構造を形成していることが示唆された(図4b~d).4.PGM1に見られる特徴的な構造要素PGM1-AMP複合体中に存在するAMPのアデニンはPGM1のLys185とGlu243の側鎖,Lys244の主鎖OHとHis246の主鎖NHとアデニンのN7,N6,N6,N1とがそれぞれ水素結合を形成していた.このPGM1のアデニン認識機構を最も構造相同性の高いA. aeolicus PurD(PDB2YW2)と比較すると,PurDでも保存されたLys143およびGlu185がアデニン認識に関与しており,本領域がPGM1のATP結合部位であることが明確となった(図5a,b).PurDはATP中のγ-リン酸とArg287近傍にN末端基質Glyが結合し,Glyをリン酸化する.8)したがって,PGM1のN末端キャッピング基質もこのAMPのリン酸基近傍に結合することが予想された.PGM1のATP結合部位近傍の構造を確認すると,ATP結合部位に対しより分子表面側の隣接した領域にコア構造とBドメイン間に広がる大きなキャビティと,NおよびBドメインにより形成された深く長いクレフトが存在していた.さらに,ATP結合部位とキャビティ・クレフトとの境界部にはArg335が位置していた.このArgはPurDに保存された触媒残基であり(Arg287),PGM1においても一次配列上,さらに,立体構造上保存された位置に存在した.また,PurDのATPやPGM1のAMPのリン酸基はこのArg側鎖近傍に位置し,PGM1でもこのArgがリン酸化の触媒残基であると想定された.一方,PGM1とPurDの構造を比較すると,PGM1のNドメインは2巻きのαヘリックスから残基数の少ないβ4-α4ループと,PurDより長いβ1-η1ループに構造が変化していた.その結果,PurDでは表面に出ていたβ4-α4ループに相当する領域が新たに形成されたβ1-η1ループによって覆われ,PGMではBドメインとの間に深いクレフトを形成した(図5c~f).さらに,PGM1のβ15-α11ループはPurDに比べ短いために活性部位を覆えなくなり,また,PGM1の短いβ11-β12ループがN末端基質結合部位の体積を増加させた(図5c~f).これらのPGM1に特徴的な広大かつ分子表面に存在するキャビティと深く長いクレフトは鎖長の異なる多様なC末端側リボソーム由来ペプチドの受け入れに重要な構造要素であることが予想された.図5PGM1とA. aeolicus PurDの構造比較.(Comparisonof active site architectures between PGM1 and A.aeolicusPurD.)(a,c,e)PGM1-AMPPNP複合体,(b,d,f)A. aeolicus PurDを示す.(a,b)ATP結合部位,(c,d)PGM1に特徴的に見られるクレフト構造のリボン表示,(e,f)(c,d)の分子表面を示す.5.Docking simulationと変異酵素の機能解析によるN末端非タンパク質性アミノ酸基質結合様式の推定N末端をキャップする非タンパク質性アミノ酸およびC末端リボソーム由来ペプチドの結合様式を明らかにする目的で,PGM1,AMPPNPに非タンパク質性アミノ酸,さらに,リボソーム由来ペプチドとの複合体結晶の作製を試みた.非タンパク質性アミノ酸としては本来の基質である(S)-2-グアニジノ-2-(3,5-ジヒドロキシ-4-ヒドロキシメチル)フェニル酢酸を調製できなかったため,(S)-2-グアニジノ-2-フェニル酢酸を用いた.また,リボソーム由来ペプチドはNVKDRやNVKGPTを用いて三者複合体,四者複合体の調製を試みた.しかし,(S)-2-グアニジノ-2-フェニル酢酸やNVKDR,NVKGPTはその低い溶解性から共結晶やソーキングにより三者および四者複合体を調製できなかった.そこで,ドッキングシミュレーションにより予想される部位についてアミノ酸点変異体を調製し,変異体のPGMの生成量を比較することで基質結合部位を推定した.PGM1-ADPおよびPGM1-ATP-Mg複合体モデル構造をPurD-ATP複合体やPurD-Mg複合体との重ね合わせにより作製した.PGM1-ATP-Mg複合体モデル構造を用いてAutodock VinaによりN末端基質である(S)-2-グアニジノ-2-(3,5-ジヒドロキシ-4-ヒドロキシメチル)フェニル酢酸をγ-リン酸およびArg335近傍の領域に対してドッキングシミュレーショ日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)99