ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

松井崇な基質特異性を発揮する構造基盤について紹介する.5)2.PGM1 apo体の結晶構造解析Ni Sepharose 6 Fast FlowとResource Qを用いて高純度に精製し,20 mg/mLまで濃縮したSeMet標識C末端Hisタグ融合PGM1は蒸気拡散法により20℃で結晶化スクリーニングを行い,得られた初期結晶の条件に対し結晶化条件の最適化を行った.その結果,0.1 M Tris-HCl pH8.3,1.2 M Lithium sulfate,0.01 M L-Met条件でSeMet標識PGM1の結晶を得た.得られた結晶はPF BL17Aにて1.95 A分解能で回折像を取得できた.PGM1結晶は空間群P1に属し(a=77.7 A,b=86.8 A,c=94.3 A,α=73.7°,β=85.9°,γ=68.3°),非対称単位中に4分子が存在する結晶であった.位相はSe-SAD法(λ=0.97939 A)によりAutosolを用いてSeサイトと初期位相を決定した.さらに,Autobuild,phenix.refineとCootを用いてPGM1の構造モデルを構築した(PDB 3WVQ).得られたPGM1 apo体構造から,PGM1 apo体は非対称単位中に2組のホモ二量体を形成していた.個々のPGM1 apo体構造はN,A,B,Cからなる4つのドメインにより構成された.そのうち,N,A,Cドメインは1つの大きなコア構造を形成するものの,Bドメインは独立してコアドメイン上部に存在していた(図4a).Dali図4 PGM1の結晶構造とATP-graspタンパク質との構造比較.(Comparison of overall structure of PGM1 apo,PGM1-AMPPNP, E. coli PurD, and A. aeolicusPurD.)(a)PGM1 apo,(b)PGM1-AMPPNP複合体,(c)E. coli PurD,(d)A. aeolicus PurDの結晶構造を示す.PGM1構造中には各ドメインを異なる色で示した.触媒残基Arg335の側鎖とタンパク質に結合した基質をそれぞれスティック表示した.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.programを用いて構造相同性検索を行った結果,PGM1apo体はATP graspスーパーファミリーに属するグリシンアミドリボヌクレオチド合成酵素(PurD,PDB 2YW2),Aspergillus clavatus由来N 5 -カルボキシアミノイミダゾールリボヌクレオチド合成酵素(PDB 3K5H),E. coli由来グリシンアミドリボヌクレオチド転移酵素(PDB 1KJ8),Bacillus licheniformis由来L-アミノ酸ライゲース(PDB3VOT)と17%未満の低い配列相同性しか示さないが,それぞれ3.7,3.8,4.2,4.7 Aのr.m.s.d.値で高い構造相同性を示し,立体構造からもPGM1はATP graspタンパク質であることが判明した.3.PGM-AMPPNP複合体結晶構造解析SeMet標識PGM1とATPアナログのAMPPNPとの複合体結晶は調製したSeMet標識PGM1を0.1 M Tris-HClpH 8.1,1.2 M lithium sulfate,0.01 M AMPPNP存在下で20℃で結晶化することで得た.得られたPGM1-AMPPNP複合体結晶はPF BL5Aにて2.17 A分解能で回折像を取得した.複合体結晶も空間群P1に属し(a=77.6 A,b=86.7 A,c=94.1 A,α=73.9°,β=86.1°,γ=68.2°),非対称単位中に4分子が存在する結晶であった.複合体結晶はSeMet標識PGM1結晶構造を鋳型としたMR-SAD法(λ=0.97901 A)により位相を決定後,Autobuild,phenix.refineとCootを用いてPGM1-AMPPNPの構造モデルを構築した(PDB 3WVR).得られたPGM1-AMPPNP複合体結晶にもPGM1 apo体と同様に2組のホモ二量体が非対称単位中に存在した.非対称単位中の4分子間の構造を比較すると,r.m.s.d.値が0.3~0.5 Aで4分子は非常によく似た構造をとることがわかった.非対称単位中の4分子のうち3分子のPGM1は,N,A,Cドメインからなるコア構造とBドメインとで形成するポケット中にAMPPNPの部分構造であるAMPまでの明確な電子密度が確認できた(図4b).また,本構造中にはβリン酸と思われる非常に弱い電子密度も観測されたが,PGM1-AMPPNP複合体構造ではβおよびγリン酸の位置が明確に特定できなかった.そのため,本構造は明瞭な電子密度を示したPGM1-AMP複合体として構造決定した.また,PGM1 apo体とAMPPNP複合体結晶から得られたPGM1-AMP複合体の各構造を比較すると,全体構造のr.m.s.d.値は0.2~0.9 Aであり,apo体とAMPPNP複合体はほぼ同一構造を形成していた.過去のATP graspタンパク質PurDの構造解析から,PurDはBドメインがコア構造に対して開いたオープン構造と,リン酸化とそれに続く基質間のアミド結合触媒反応状態では閉じたクローズ構造をもつことが知られている.そこで,PGM1-AMP複合体構造とE. coli由来PurD(PDB 1GSO)7)のオープン構造およびA. aeolicus由来のクローズ構造(PDB 2YW2)8)との構造を比較した結果,それぞれ4.4 A98日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)