ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

リボソーム由来ペプチドのN末端をキャッピングする新規ペプチドリガーゼの構造基盤ソーム由来17アミノ酸が前駆体ペプチドで,前駆体ペプチドはオキサゾール,チアゾリンやデヒドロアラニンへの翻訳後修飾や環化反応を経てチオストレプトンへと変換される.3)このチオストレプトンを始めとしたリボソーム由来の抗生物質は非タンパク質性アミノ酸を有し複雑な骨格を形成していることからNRPSにより生合成されると考えられてきた.しかし,近年,次世代シーケンサーを含む遺伝子解析技術の進歩により細菌中の遺伝子クラスターが同定可能となり,クラスター中に前駆体ペプチドとその修飾酵素群が発見されたことでこれらのペプチドがリボソーム翻訳系翻訳後修飾ペプチドであることが明らかになった.1.3ペプチド系抗生物質フェガノマイシンのリボソームとペプチドライゲースによる共同的な生合成放線菌S. cirratusが生産する抗マイコバクテリア活性をもつペプチド系抗生物質フェガノマイシン(PGM)は,非タンパク質性アミノ酸である(S)-2-グアニジノ-2-(3,5-ジヒドロキシ-4-ヒドロキシメチル)フェニル酢酸にタンパク質性アミノ酸であるAsnとLys,そして(S)-2-アミノ-3,3-ジメチルブタン酸(L-tert-Leu)からなる主鎖骨格を有する.さらに,C末端にタンパク質性アミノ酸Asp,Asp-Arg,Asp-Gly-Pro-Thrが付加したPGM-D,PGM-DR,PGM-DGPTも存在する(図1c).4)また,PGMは既知のペプチド系抗生物質の生合成経路である1)NRPSや2)リボソーム翻訳系翻訳後修飾ではなく,リボソーム由来ペプチドと新規ペプチドライゲースPGM1により生合成される新しいタイプのペプチド系抗生物質である.5)PGMの生合成遺伝子クラスターには,バンコマイシンのもつ(S)-2-アミノ-2-(3,5-ジヒドロキシフェニル)酢酸骨格を形成するDpgA,DpgB,DpgC 6)のオーソログで(S)-2-グアニジノ-2-(3,5-ジヒドロキシ-4-ヒドロキシメチル)フェニル酢酸の生合成遺伝子群,NVKDRおよびNVKDGPTのペプチドをコードする遺伝子,そして,ATP graspモチーフをもつ新規ペプチドライゲース(PGM1)遺伝子が存在する(図2a).5)PGM1はDpgオーソログ酵素群によって合成される非タンパク質性アミノ酸基質である(S)-2-グアニジノ-2-(3,5-ジヒドロキシ-4-ヒドロキシメチル)フェニル酢酸をMgCl 2存在下でATPによりリン酸化し,求核剤となるリボソームで翻訳されるNVKDRやNVKDGPTと反応させることでPGM前駆体を合成後,Leuのメチル化を経てPGMが形成される(図2b).興味深いことにPGM1は(S)-2-グアニジノ-2-(3,5-ジヒドロキシ-4-ヒドロキシメチル)フェニル酢酸だけではなく,その類縁体の(S)-2-グアニジノ-2-フェニル酢酸,(R)-2-グアニジノ-2-フェニル酢酸,2-グアニジノ酢酸,クレアチンも基質として利用できることが報告された.5)さらに,求核剤となるペプチドについても,NVKDRやNVKDGPTだけではなく2残基から少なくとも18残基までの多様なペプチドを求核剤として受け入れ,PGM1はN末端側およびC末端側基質ともに寛容な基質特異性を示す新規ペプチドライゲースである(図3).5)本稿では,ペプチドライゲースとリボソームによる共同的な新規ペプチド生合成機構を担うPGM1のN末端基質やC末端基質の広範図2フェガノマイシンの遺伝子クラスターとPGMの予想生合成経路.(A schematic illustration of the pheganomycinbiosynthetic gene cluster, and hypothetical biosyntheticmachinery of PGM.)(a)遺伝子クラスターと(b)予想生合成経路を示す.図3 PGM1が受け入れる基質.(Compounds used for N-terminalsubstrateandpeptidesusedfornucleophile.)(a)N末端側の基質選択性.(b)C末端側の求核剤ペプチドの基質選択性を示す.日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)97