ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

ページ
54/100

このページは 日本結晶学会誌Vol59No2-3 の電子ブックに掲載されている54ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

日本結晶学会誌59,96-101(2017)最近の研究からリボソーム由来ペプチドのN末端をキャッピングする新規ペプチドリガーゼの構造基盤富山大学和漢医薬学総合研究所松井崇Takashi MATSUI: Structural Basis for the N-Terminal Capping onto the RibosomalPeptide by Novel Peptide Ligase PGM1Pheganomycins(PGMs)derived from Streptomyces cirratus are one of the peptide antibioticsand synthesized under the cooperation of a novel peptide ligase, PGM1, and ribosome, in contrast oftypical peptide antibiotics. In the biosynthesis, PGM1, which is a peptide ligase with broad substratepermissivity, can catalyze the linkage between several types of nonproteinogenic amino acid includinga 2-guanidino group and some ribosomal peptides to generate N-terminal capping peptide. Herein,I present structural studies for the recognition mechanisms of N-terminal capping substrates andC-terminal ribosomal peptides.1.はじめに1.1微生物が作り出す抗生物質植物や微生物が生産する天然有機化合物の中には人類にとって有用な化合物が数多く見出されており,上市された医薬品の50%以上はこれら天然の低分子有機化合物や天然物模倣体である.1)特にこれら天然有機化合物のうち,Penicillium chrysogenumから単離されたβ-ラクタム系抗生物質であるペニシリンやStreptomyces griseusから単離されたアミノグリコシド系抗生物質ストレプトマイシンなどの抗生物質の発見・利用は,1940年代まで本邦における主な死因であった肺炎や結核を始めとした細菌感染症治療に貢献し,人類のQOL改善に貢献してきた.現在では,ポリケタイド化合物であるテトラサイクリン系やマクロライド系の抗生物質や,ペプチド系抗生物質なども発見され,治療に使用されている.1.2ペプチド系抗生物質のリボソーム依存的または非依存的な生合成ペプチド系抗生物質であるダプトマイシン(図1a)はS. roseosporusから単離され,バンコマイシン治療抵抗性を示すメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の治療に用いられる.ダプトマイシンは非リボソーム系ペプチド合成酵素(NPRS)を含む生合成経路により非タンパク質性アミノ酸(D-アミノ酸やオルニチンなど)を含有した主鎖を形成し,さらに,環化することで分解されにくいペプチドとして生合成される.2)一方,S. azureusなどから単離されたチオストレプトン(図1b)は動物に対しグラム陰性細菌の感染治療に使用される.チオストレプトンはリボ図1ペプチド系抗生物質の化学構造.(Chemical structures of peptide antibiotics.)(a)非リボソーム系ペプチド合成酵素により生合成されるダプトマイシン,(b)リボソーム翻訳系翻訳後修飾ペプチドであるチオストレプトン,(c)リボソーム由来ペプチドのN末端に非タンパク質性アミノ酸を付加するペプチドライゲースPGM1により生合成されるPGMの化学構造をそれぞれ示す.96日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)