ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

米倉功治,眞木さおり3.データ測定,解析二次元結晶の回折パターンは,繰り返しのない方向(膜タンパク質の結晶では通常,膜に垂直な方向)に連続的な格子線になる.任意角度に結晶を傾斜させても,すべての格子線とEwald球は必ず交差し検出器に記録される(図5a).二次元結晶からのデータ収集では,ある角度に試料を傾斜後,静止して回折パターンまたは実像を記録する.いろいろな角度に傾けて多数の結晶からデータ測定を繰り返し,測定できていない角度では格子線に沿って,強度,位相,ともに内挿から値を見積もる.一方,三次元結晶の回折パターンはすべての方向で離散的な回折点となる.三次元空間に分布する回折点をもらすことなく,その正確な強度情報を取得することは難しかった.試料を回転させながら回折パターンを記録し回折強度を機械的に積分することにより,ほとんどの回折点の強度情報を抽出できる(図5b).これは,タンパク質結晶のX線回折で標準となっている測定法であるが,電子線回折では実現されていなかった.筆者たちは,日立ハイテクノロジーズ社製の電子顕微鏡を基に,新しい電子回折計を開発した.このシステムは,回転角度を高精度に制御できる試料ステージを備え,結晶を回転させながら電子線を照射し回折パターンを記録することができる.また,試料のクーロンポテンシャルを正確に反映する弾性散乱された電子のみを選択して結像に用いる17)ために,電子分光装置(エネルギーフィルター)を搭載している. 10)同システムの写真,概略図などは文献18)に示した.氷包埋した試料からは多くの非弾性散乱電子が発生し,回折パターンに高いバックグラウンドを生じる. 17)非弾性散乱電子の平均自由行路は弾性散乱電子の約1/4で, 19)結晶の傾斜角を大きくした際には電子線の透過距離が長くなるので,非弾性散乱の影響は非常に深刻となる.したがって,電子分光は高品質のデータ取得に絶大な効果を発揮する. 10),17)最近,著者は,日本電子社の汎用的な電子顕微鏡で三次元結晶から回折パターンの回転測定を可能にするGUI測定プログラムを開発した(図6).検出器には高速読み出し可能なシンチレータ結合型のGatan社OneViewを用いている.ソフトウェアに関しては,電子線回折パターンを処理する一連のプログラムを開発した(図3).電子線照射による試料損傷は大きく,1フレーム当たりの照射量を少なく抑えても,1つの結晶から広い傾斜角度にわたって回折点を集めることは難しい.既存のX線結晶構造解析用のプログラムを用いて,狭い角度範囲しかない電子線回折パターンのデータセットは処理できていない. 11)これは,短い波長の電子線のEwald球がほぼ平坦になることを反映し,1フレームに電子線照射方向に指数の異なる回折点が記録されにくいことが原因と考えられる.著者の解析プログラムでは,1フレーム内で二次元格子として回折点を指数付けしてから,回転シリーズ内で三次元目の指数付けを行う.この二段階を経ることで,5~10°の狭い角度範囲のデータセットの処理も可能になった.ある回転シリーズ中(H,K)指数が同じ回折点のフレームごとの強度の分布を図7aに例示するが,隣り合うピークの分離はよいことがわかる.図7bの回折点の平均強度分布の広がりがN=4のラウエ関数とほぼ重なることから,この結晶は4~5層の厚みしかないこと,このような薄い結晶でも構造解析に利用できることを明らかにできた. 10)また,複数のフレームにわたる回折点の積算を図7bの平均強度分布で重み付けすることで,より正確な強度情報を取得できる. 10)広い角度範囲にわたab図5二次元結晶からの格子線(a)と三次元結晶からの回折点(b)の分布の模式図.(Distributions of lattice linesfrom the 2D crystal(a)and lattice points from the 3Dcrystal(b)over the diffraction space.)(b)では,結晶を回転させることが,回折点の強度測定に必要になる.図6新たに開発した日本電子社の汎用電子顕微鏡で,電子線回折回転測定を実現するGUIプログラム.(Newly developed GUI programs for rotationaldata collection of electron-diffraction patterns withJEOL electron microscopes.)90日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)