ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

タンパク質の電子線三次元結晶構造解析と電荷の精密化図2膜タンパク質の三次元結晶の電子線回折パターン(a)とX線回折パターン(b).(Electron(a)and X-ray(b)diffractionpatternsfrommembraneproteinthin3Dcrystals.)(a),(b)ともほぼ同じ条件で得られたExbBDの結晶から測定.(a)図1aの微小な平板結晶に300 kVの電子線を照射して記録された回折パターン(眞木ら,未発表).2A前半の分解能の回折点が観察される.(b)100μm程度の平板結晶の一部分から,SPring-8のBL32XUにおいて波長1 AのX線を照射して得られた回折パターン(眞木ら,未発表).Ewald球曲面上に回折点が並んでいるのがわかる.(b)で用いた大きく良質な結晶より,(a)の微小な結晶のほうがはるかに容易に作製できる.図3カタラーゼの薄い結晶5()図1b)の電子線回折パターン.(A rotational electron diffraction pattern fromthin catalase 3D crystals.)回転シリーズの1つのフレーム.試料ステージを傾斜角25.0°から25.5°に連続的に回転させながら総計0.03 e-/A 2の電子線を照射して記録した回折パターンを,開発したプログラム(XQED)10)で表示した.左下の挿入図は,右上の矢印で示した2.4 A分解能の回折点,また,回折パターン上の斜めの直線は傾斜軸の方向を示す.文献10)より改変.で薄い結晶からでも,結晶性さえよければ図2a,3に示12)す2 A前半台の分解能まで,理想的な結晶では1 A台の回折点が観測できる.生体分子観察に用いられる一般的な電子顕微鏡の加速電圧200 kVと300 kVでは,電子線の波長は,それぞれ2.51 pmと1.97 pmになる.これはタンパク質結晶のX線回折実験に使用される波長の約1/50に相当し,タンパク質結晶構造解析のターゲットとなる1~3 A分解能ではEwald球はほとんど平面に近似される.X線回折ではEwald球曲面上に回折点がのっているのがわかる(図2b)が,電子線ではどのような照射角度からでも回折点は直線上に並ぶように見える(図2a).試料の厚みは電子線回折の大きな制限になるが,筆者らは加速電圧300 kVの電子線を用いて厚さ150 nm程度のタンパク質の三次元結晶で透過パス長が2倍になる約60°の傾斜角度まで,回折パターンが記録できることを明らかにした. 10)電子線は負電荷をもち,同じ原子でもイオンと中性のもので,散乱のされ方は特に低分解能側で大きく異なる(図4a). 13),14)X線で両者の違いは小さい(図4b)のに比べて,電子線での違いは顕著である.電子線では,この電荷分布の情報を含む,分子のクーロンポテンシャルマップが得られる.これにより,生体分子の機能部位の荷電状態に関する情報を実験的に取得することが可能になる. 10),15)アミノ酸や金属イオンの荷電状態は,生体分子の機能に直接かかわるため,非常に重要な情報である.タンパク日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)aAtomic scatteringamplitude (A)bMean scattering factors図44.02.010.08.06.04.02.0HOHResolution (A)10 5.0 3.3 2.5 2.0CH + 300kV electronO0.00.000.050.100.150.200.25sinθ/λResolution (A)10 5.0 3.3 2.5 2.0X-rayO -0.00.000.050.100.150.200.25sinθ/λO -質のX線結晶構造解析の電子密度マップからは,荷電に関する情報は取得できない.一方,無機結晶のX線回折では,Maximum Entropy法による解析が実現している. 16)CaFeCaCa 2+Resolution (A)10 5.0 3.3 2.5 2.030.0Fe 2+ 300kV electronCa 2+FeFe 3+0.00.000.050.100.150.200.25sinθ/λResolution (A)10 5.0 3.3 2.5 2.030.0X-rayFe 3+Fe 2+0.00.000.050.100.150.200.25sinθ/λ加速電圧300 kVの電子線(a)とX線(b)に対する原子散乱因子.(Atomic scattering factors for 300 kVelectrons(a)and X-rays(b).)文献13)より計算.電子線のH +の散乱因子は文献14)の値を用いた.(a)では表示の範囲で,Ca 2+とFe 2+の散乱因子はほぼ重なっている.電子線の散乱因子の絶対値(縦軸)は加速電圧(電子の速度)に依存するが,原子,イオン種間で相対的なスケールは変化しない.8920.010.020.010.0