ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

栗栖源嗣図5カルレドキシン(Crx)の結晶構造.(Crystal structure of Calredoxin.)Crxの1.6 A分解能での結晶構造(左)とNADH:Trx還元酵素:Crxの3重複合体のモデル(右).鋳型に,CrxとTrx還元酵素の複合体モデルを計算した.その結果,Fd依存型Trx還元酵素では,立体障害により複合体形成が邪魔されるのに対し,NADH依存型Trx還元酵素では,立体障害なくNADH:Trx還元酵素:Crxの3重複合体を形成可能なことが示唆された(図5).さらにその後,Hippler教授らによるプロテオミクス解析から,Crxの相互作用相手が活性酸素種の除去を担う葉緑体型のペルオキシレドキシンであることが判明した(図4).現在では,CrxはCa 2+濃度依存的に構造変化し抗酸化反応に寄与することで,CEF超複合体形成を制御していると考えられている.3.化学エネルギーを物理的仕事に変換する反応3.1ダイニンモータードメインの全体構造ダイニンはATP依存的に微小管上を滑り運動するモータータンパク質で,細胞内輸送や染色体分離運動など,生物学的に重要な反応にかかわっている.しかし,その巨大な分子サイズ(>500 kDa)がネックとなって,同じモータータンパク質のキネシンやミオシンに比べて運動機構の解明が遅れていた.アミノ酸の配列解析と電子顕微鏡による低分解能構造解析により,ダイニン重鎖には,“ストーク”および“リンカー”と呼ばれる2つの特徴的な機能ユニットが存在することがわかっていた. 13)ストークはATPの加水分解を行うAAA +リングから突き出たコイルドコイル構造で,その先端部に位置する小さな球状構造が微小管結合部位(MTBD)である.一方,リンカーは,ダイニンの力発生を担っている機能ユニットであり,リンカーの先には“テイル”と呼ばれる二量体化ドメインが繋がっている.分子モーターでは,モーター活性を担う最小領域を“モータードメイン”と呼ぶ.ダイニンの場合,モータードメイン(MD)の分子サイズは380 kDaである.2011年にわれわれのグループと米国UCSFのグループとで,ダイニンMDの中程度分解能(4.5~6.0 A)の結晶構造を報告した. 14),15)それにより,二次構造レベルでダイニンの分子構造が記述された.その後,われわれは細胞性粘菌のダイニンMD結晶の高分解能化に成功し,最終的に最高2.8 A分解能でADP結合状態のX線構造を報告することができた(図6). 16)われわれが構造決定に用いた細胞質ダイニンのモータードメインは2種類あり,380 kDaの野生型モータードメイン(WT)と,MTBDを欠失させた変異体(ΔMTBD)をADP結合状態で構造解析した.これまでの機能解析から,ADP結合状態のダイニンMDは微小管結合能の高い状態であることがわかっていた.一方,ΔMTBDは微小管には結合しないが,そのATPase活性(100 s-1)から,野生型が発揮しうる最大活性を示すことがわかっており,活性化状態に固定された変異体であると考えている.ΔMTBDの構造決定には,TaとWさらにSe-Metに置換した重原子誘導体結晶による同型置換法を適用した.Native結晶,誘導体結晶のすべての回折強度データはSPring-8 BL44XUにおいて測定した.最終的に,N末端の22残基と,ディスオーダーしたループ構造,欠損させているMTBD以外の約90%に相当する分子モデルを構築することができた.得られた分子モデルは2.8 A分解能で構造精密化を行い,十分な信頼度因子(R work/R free=0.263/0.321)で構造決定することができた.WTの結晶構造は,ΔMTBDの構造モデルを用いた分子置換法により決定した.構造精密化は3.8 A分解能で行い,結晶学的にも十分な精度で構造決定することができた(R work/R free=0.221/0.294).ダイニンMDの中心となる構造は,ATP加水分解活性のあるAAA +リングであり,6つのAAA +モジュール(AAA1~6)が順番にリング状に並んだ配列となっていた.円の直径は130 A,厚さは65 A,中心には直径35 Aの孔が開いた構造をしている(図6).N末端の力発生を担うリンカー領域がAAA +リングの表面に位置し,AAA +リングの裏側には,C-シークエンスと呼ばれるC末端構造がAAA1,5,6の各モジュールを裏打ちするように存在していた.AAA +リングの側面からは,AAA4か84日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)