ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

生体エネルギー変換にかかわる生体超分子複合体の構造研究キノン酸化反応(ルーメン側:p-side)PQH 2+FeS(ox)→PQH・+FeS(red)・ H +(1)FeS(red)・ H ++heme f(ox)→FeS(ox)+heme f(red)+H + p-side(2)PQH・+heme b p(ox)→PQ+heme b p(red)+H + p-side(3)膜中での電子伝達heme b p(red)+heme b n(ox)→heme b p(ox)+heme b n(red)(4)キノン還元反応(ストローマ側:n-side)シトクロムbc 1の場合heme b n(red)+PQ→heme b n(ox)+PQ・-(5)heme b n(red)+PQ・-+2H + n-side→heme b n(ox)+PQH 2(6)シトクロムb 6fの場合heme b n(red)+heme c n(ox)→heme b n(ox)+heme c n(red)(7)heme c n(red)+PQ→heme c n(ox)+PQ・-(8)heme c n(red)+PQ・-+2H + n-side→heme c n(ox)+PQH 2(9)heme b n(red)+heme c n(red)+2H ++PQ→heme b n(ox)+heme c n(ox)+PQH 2(10)それでは,なぜQ-サイクル機構に必須でない補欠分子属がCyt b 6fに含まれるのであろうか?植物や藻類では,生育環境によってフェレドキシンからプラストキノンへと電子を循環させ,ATP合成のためのH +濃度勾配を積極的に形成する循環電子伝達(CEF:Cyclic ElectronFlow)という仕組みが存在している(図2). 10)古くからチラコイド膜上に循環電子伝達が存在することは報告されていたが,その分子実体は,2010年に日本のグループがCyt b 6fと光化学系Ⅰを含む生体超複合体を単離・精製するまで謎とされてきた. 11)これらを踏まえて,Cytb 6fに特徴的な補欠分子属の生理的役割について構造の面から検討した.第1に,新規ヘム鉄(heme c n)はストローマ側でフェレドキシンからの循環電子を受け取る補欠分子属なのかもしれない.クロロフィルやカロテノイドは通常,上述のとおり光エネルギーを吸収するアンテナの役割を担う.しかし,光に依存しないCyt b 6fの反応ではアンテナの役割は必要とされない.したがって第2に,光を吸収する光化学系Ⅰやアンテナタンパク質(LHCII)とでCEF超複合体を作る際に,クロロフィルとカロテノイドが“のり”の役割をしている可能性を指摘できる.これらの仮説は構造的に推定されたものであるが,今後の実験的検証が待たれるところである.2.3光合成電子伝達の調整機能葉緑体チラコイド膜中でCEFを駆動する際に,光化学系ⅠとCyt b 6f,それにアンテナ膜タンパク質とで超複合日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)図4カルレドキシンによるCEF超複合体の形成制御機構の模式図.(Calredoxin’s functional model of CEFsupercomplex formation.)カルレドキシン(Crx)はCa 2+濃度依存的にペルオキレドキシン(Prx)を還元してCEF超複合体形成に関与する.体を形成する(図2,4).このCEF超複合体の形成はどのように制御されているのであろう.われわれは,ドイツ・ミュンスター大学M. Hippler教授(植物生理学)と共同で,CEF超複合体形成を制御するタンパク質の探索と,その構造・機能相関の解明に取り組んだ.CEF超複合体の誘導には,強光照射によるチラコイド膜の状態遷移,そしてCa 2+イオン濃度の変化が大きくかかわっていることが報告されていた.そこで,Hippler教授グループでは微量質量分析計を用いたプロテオミクス解析で,CEF超複合体形成の制御タンパク質同定に取り組んだ.その結果,強光照射下で誘導するCa 2+結合タンパク質としてカルレドキシン(Crx)が同定された. 12)Crxは強光で誘導され,光環境適応に重要な役割を果たすことが示唆された.アミノ酸配列の相同性解析から,N-末端側にCa 2+を結合するカルモジュリンドメイン(CaMドメイン),C-末端側に酸化還元反応を担うチオレドキシンドメイン(Trxドメイン)をもつことが指摘されていたので,Ca 2+濃度を変えて酸化還元活性を測定した.その結果,Ca 2+濃度依存的に酸化還元活性を発現することがわかった.次に,Ca 2+結合状態のCrxの結晶構造を1.6 A分解能で決定した. 12)回折強度測定はSPring-8 BL44XUを用いて行い,位相決定にはSe-Met誘導体結晶によるSe-SAD法を用いた.N末端側のCaMドメインに4つのCa 2+が結合し,フレキシブルなループ領域を挟んでC末端側にTrxドメインが繋がる棒状の構造が明らかになった(図5).両ドメイン間には多数の相互作用が見られたが,Ca 2+結合部位とTrxドメインの活性中心との間を直接関係づけるのは,2つの水素結合ネットワークだけであった.変異体Lys263Ileを用いた活性測定から,水素結合ネットワークのうち,263番のリジンを経由するものがCa 2+依存的な酸化還元活性の発現に必須であることを突き止めた.葉緑体の中には,NADH依存型とフェレドキシン依存型の2種類のTrx還元酵素が存在している.次に,Crxを還元する構造基盤を明らかにするため,2種類のTrx還元酵素とTrxとの複合体構造(PDB ID:1F6M,2PVO)を83