ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

栗栖源嗣図1クロロフィルの生合成過程.(Biosynthetic pathwaysof chlorophyll.)プロトクロロフィリド還元反応(緑化反応)を触媒する酵素には光依存型(LPOR)と暗所作動型(DPOR)の2種類が存在している.図3シトクロムb 6fの結晶構造と補欠分子属の配置.(Crystal structure of cytochrome b 6f complex and it’sprosthetic groups.)図2チラコイド膜上での電子伝達反応の模式図.(Thylakoidelectron transport chains.)上図は光化学系Ⅱ(PSII)と光化学系Ⅰ(PSI)とをシトクロムb 6f(Cyt bf)が直列に繋ぐ電子伝達経路(リニア電子伝達).下図は,Cyt b 6fとPSIの間で電子が循環する電子伝達経路(循環電子伝達)を示した模式図.後者は循環電子伝達複合体(CEF超複合体)を形成している.されたPCが光化学系Ⅰへと電子を供給している.Cyt b 6fは,この一連の電子伝達と連動する形で,膜のストローマ側からルーメン側へと.H +を輸送し電気化学的ポテンシャル差(ΔμH +)を形成する役割も担っている.ミトコンドリア呼吸鎖や細菌型光合成の電子伝達鎖に存在するシトクロムbc 1複合体(Cyt bc 1)と,機能的類似性をもつことから,サブユニット構造は異なるものの分子進化の観点からも両複合体は類似であると考えられてきた.7)分光学的および生化学的な実験から,Cyt b 6fおよびCyt bc 1の電子伝達とプロトン輸送は,「Q-サイクル機構」で説明されてきた.Q-サイクル機構は,P. Mitchell(1978年ノーベル化学賞)により提唱され,その後多くの研究者により改変された反応機構で,高分解能で構造解析されたCyt bc 1の結晶構造に基づき理解されていた.8)Cyt b 6fの反応が,完全にCyt bc 1と同じQ-サイクル機構で説明できるのかどうかは,われわれが構造解析に成功するまで不明であった.私が助手を務めていた大阪大学蛋白質研究所生体分子解析研究センターの月原冨武センター長(当時,現名誉教授),楠木正巳准教授(当時,現山梨大教授)のご理解・ご協力の下で,幸運にも2001年4月に米国Purdue大学W. A. Cramer教授,J. L. Smith教授の共同研究グループへ留学する機会を得た.われわれは,好熱性シアノバクテリアを材料に用いることで,Cyt b 6 fの結晶構造を3.0 A分解能で解析することに成功した.9)回折実験はAPS SBC-CAT 19IDにおいて実施し,位相決定には鉄の異常分散データと重原子誘導体結晶のデータとを用いた.Cyt b 6fは,二量体当たり16個のサブユニットを含む分子量22万の超分子複合体構造をとっており,シトクロムb6,シトクロムfとRieske鉄・硫黄タンパク質(ISP)の3つのサブユニットが電子伝達のための補欠分子族(ヘム鉄およびFeSクラスター)を含んでいた(図3).結晶構造が明らかになるまでは,Cyt bc 1との類似性から,シトクロムfがもつ1つのヘム鉄(c-タイプ)と,シトクロムb6がもつ2つのヘム鉄(b-タイプ)の3つのヘム鉄を含有すると強く信じられていた.しかし,実際に構造解析してみると,上記3つのヘム鉄のほかに,アミノ酸側鎖からの配位子をもたない非常にユニークな新規ヘム鉄を膜貫通領域に見出した.この新しいヘム鉄は分光学的にも未同定で,“これまでにない”という意味を込めてheme xと命名し論文発表した.現在は異型のc-タイプであると分類されて,heme c nと改名されている.その他に複合体の最外殻部に,カロテノイドとクロロフィルが結合していることも構造的に確認することができた.Cyt b 6 fの結晶構造が明らかとなり,以下に示すQ-サイクル機構はCyt b 6fの場合に限って,式(5)(6)が式(7)~(9)または式(10)に書き換えられることになった.82日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)