ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

日本結晶学会誌59,81-87(2017)総合報告(学会賞受賞論文)生体エネルギー変換にかかわる生体超分子複合体の構造研究大阪大学蛋白質研究所栗栖源嗣Genji KURISU: Structural Studies of Supramolecular Complexes for EnergyTransduction in Biological SystemsThree-dimensional protein structures bring us a deeper insight into the biological function.The main aim of my group is the X-ray structure determination of the biological macromolecularassemblies including membrane protein complexes in order to elucidate the molecular mechanismof the highly organized biological processes at atomic level. Here, I report two examples; One isstructural studies of photosynthetic membrane protein complex and related redox enzymes, and theother is crystal structure analyses of dynein motor.1.はじめに地球上の植物は,光エネルギーを利用して水と二酸化炭素から酸素と糖を合成し,動物はその植物を摂取することで,糖を分解し酸素呼吸してエネルギーを作り運動している.植物や動物の細胞内では,光エネルギー,化学エネルギー,力学的エネルギーなど各種エネルギー間で,種々な変換反応が組み合わされ,複雑な生命現象が織りなされていると言える.緑藻の一種であるクラミドモナス(コナミドリムシ)は,葉緑体と鞭毛の双方をもつモデル生物である.葉緑体における光合成反応により化学エネルギーをえて,2本の鞭毛を駆動することで水中を泳ぐ.私は,小さな単細胞生物である緑藻クラミドモナスが示す“化学エネルギーの生成と利用”が,生命らしさを支えるきわめて重要な反応系であると捉えている.2001年以降,この2つの生体エネルギー変換反応に着目して構造研究を進めてきた.具体的には,光合成生物がもつ『光エネルギーを利用してNADPHやATPなどの化学エネルギーを生産する反応』と,動物などがもつ『化学エネルギーを利用し物理的仕事に変換して運動する生体分子モーター』である.2つの生体エネルギー変換反応のうち前者は,ⅰ)光合成色素による光エネルギーの吸収,ⅱ)そのエネルギーを使って起こる電荷分離反応,ⅲ)電荷分離反応の連結とプロトン濃度勾配を形成するための電子伝達,ⅳ)光環境に適応した電子伝達鎖の調整,に要素を分けて考えることができる.後者の生体分子モーターについては,アクチン骨格で運動するミオシンと,微小管系分子モーターであるキネシンとダイニンの3つの代表的分子がある.本稿では,前者の要素反応のうちⅰ,ⅲ,ⅳの各反応に関連して私が関係した構造研究について順に紹介したい.ⅱについては本誌に紹介されている専門家に日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)よる記事をご参照いただきたい.1)-3)また,後者については3つの代表的分子モーターのうち,私自身が構造研究に携わってきたダイニンについて構造研究を紹介する.2.光エネルギーを化学エネルギーに変換する反応2.1光エネルギーを吸収するクロロフィルの生成光合成電子伝達反応は,色素分子であるクロロフィル(葉緑素)やカロテノイドが光エネルギーを捕集することによって開始する.そこで,われわれはクロロフィルの合成反応に着目した.多段階反応であるクロロフィル生合成過程のうち,クロロフィルを緑色にする最終段階はプロトクロロフィリド還元反応(緑化反応)と呼ばれる.われわれは,クロロフィル合成の鍵酵素と呼ばれるプロトクロロフィリド還元酵素(POR:ProtochlorophyllideOxido-Reductase)の構造解析に取り組んだ.われわれが対象としたのは,光合成のモデル生物である紅色光合成細菌がもつPORである.このPORは,光を使わずに暗所で作動するDark-operative POR(DPOR)で,ATPのエネルギーを使ってポルフィリン環をクロリン環に変換する酵素である(図1).X線結晶構造解析の結果,新規な[4Fe-4S]クラスターを同定し,類縁酵素との比較から大きな環状化合物の還元機構を明らかにした.4)詳細は本誌に報告済みの記事を参照していただきたい.5)2.2光合成電子伝達反応クロロフィルで吸収された光エネルギーは,光化学系Ⅱと光化学系Ⅰと呼ばれる膜タンパク質複合体に伝達され,反応中心で電荷分離反応が起こる.チラコイド膜中で並列に起こる2つの電荷分離反応を,電気的に連結させているのがシトクロムb 6f複合体(Cyt b 6f)である(図2).6)具体的には,チラコイド膜中で光化学系Ⅱにより光還元された脂溶性キノン類(PQH 2)から,電子伝達タンパク質プラストシアニン(PC)へと電子を伝達し,還元81