ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

放射光粉末結晶構造解析法を用いた多孔性配位高分子のガス吸着現象の構造科学的解明図7水素分子を吸着したCPL-1のMEM電子密度分布.(MEM charge density map around the nanochannel ofCPL-1 with the adsorption of hydrogen molecules.)等電子密度面の高さは0.11 eA ?3である.骨格構造の構造モデルを重ねて描いている.できる位置に吸着されていると理解することができる.つまり,効率的なガス吸着には,吸着分子と細孔表面の形がうまくフィットすることが重要であることが強く示唆される.水素分子の吸着サイトだけでなく,細孔表面との相互作用の情報を示した本研究は,新規水素貯蔵材料としてのPCPの設計指針を与え得ると考えられる.水素貯蔵材料としては,大きな細孔をもつPCPを合成し,大量の水素を吸着させるという方向性があるが,細孔の形状や骨格構造の変形を利用した効率的な貯蔵も大変興味深く,今後の新規PCPの合成が期待される.7.おわりに本稿では,高輝度放射光粉末回折法によるPCPの細孔内に吸着されたガス分子の観測とゲスト-ホスト相互作用についての考察を述べた.PCPの研究は現在も活発に進んでおり,さまざまな性質や機能をもった新規物質が合成されている.本稿で紹介した酸素分子の磁性研究のようなPCPの細孔内の空間を利用した研究もいろいろな展開を見せている.例えば,われわれの近年の研究では,PCPに吸着した水素分子の核スピンが高速にオルトからパラへ変換することを示した.24)これは低温において吸着水素分子の配列が変化し,吸着サイトの細孔表面の電場勾配がこの変換を促進していると考えられる.また,Fujitaらは,結晶スポンジ法と呼ばれる革新的な構造解析法を開発した.25)目的の物質をPCPの細孔内に取り込むことにより配向まで制御した状態で単結晶X線構造解析を行い,通常は結晶化が難しい物質の構造を解くことできる.この手法はどのような物質にも適用できるわけではなく,物質とPCP細孔との相性があるようであるが,PCP以外にも波及効果が期待される応用研究と言えよう.日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)PCPがもつ機能には計り知れないものがあるが,結晶構造解析が困難な物質も多い.現実にわれわれも構造解明までうまく辿り着かなかったものもある.特に面白い性質をもった物質ではdisorderや非整合構造など解析上の複雑な問題をもっていることが多いと感じている.今後,われわれはSDPDの技術とともにそれらを扱う解析手法,測定手法の開発にも積極的に取り組んでいきたいと考えている.本研究は,科研費特定領域研究「配位空間の科学」やERATO北川統合細孔プロジェクト,理研量子秩序研究などのプロジェクト研究の中で行われた.本研究に際し,ご指導と激励をいただきました坂田誠教授,高田昌樹教授,北川進教授,小林達生教授をはじめとする諸先生方に深く感謝申し上げる.そして,本研究はSPring-8スタッフやパワーユーザーグループメンバーの皆様をはじめここには書ききれない大変多くの方々のご支援により結実した成果である.これらの皆様のご協力とサポートに対し心より厚く御礼申し上げる.文献1)S. Kitagawa, R. Kitaura and S. Noro: Angew. Chem. Int. Ed. 43,2334(2004).2)O. M. Yaghi, M. O’Keeffe, N. W. Ockwig, H. K. Chae, M. Eddaoudiand J. Kim: Nature 423, 705(2003).3)M. Takata, B. Umeda, E. Nishibori, M. Sakata, Y. Saito, M. Ohnoand H. Shinohara: Nature 377, 46(1995).4)E. Nishibori, M. Takata, K. Kato, M. Sakata, Y. Kubota, S. Aoyagi,Y. Kuroiwa, M. Yamakata and N. Ikeda: J. Phys. Chem. Solid 62,2095(2001).5)S. Takamizawa, E. Nakata, K. Mochizuki and W. Mori: Angew.Chem. Int. Ed. 42, 4331(2003).6)C. Kachi-Terajima, T. Akatsuka, M. Kohbara and S. Takamizawa:Chem. Asian J. 2, 40(2007).7)J. L. C. Rowsell, E. C. Spencer, J. Eckert, J. A. K. Howard and O.M. Yaghi: Science 309, 1350(2005).8)Y. Kubota, M. Takata, T. C. Kobayashi and S. Kitagawa: Coord.Chem. Rev. 251, 2510(2007).9)Y. Kubota, M. Takata, R. Matsuda, R. Kitaura, S. Kitagawa and T.C. Kobayashi: Angew. Chem. Int. Ed. 45, 4932(2006).10)M. Takata: Acta Crystallogr. A64, 232(2008).11)連載企画「有機粉末構造解析をはじめよう!」,日本結晶学会誌,53(2011).12)M. Kondo, T. Okubo, A. Asami, S. Noro, T. Yoshitomi, S. Kitagawa,T. Ishii, H. Matsuzaka and K. Seki: Angew. Chem. Int. Ed. 38, 140(1999).13)R. Kitaura, S. Kitagawa, Y. Kubota, T. C. Kobayashi, K. Kindo, Y.Mita, A. Matsuo, M. Kobayashi, H. Chang, T. C. Ozawa, M. Suzuki,M. Sakata and M. Takata: Science 298, 2358(2002).14)T. Yildirim and M. R. Hartman: Phys. Rev. Lett. 95, 215504(2005).15)R. Kitaura, R. Matsuda, Y. Kubota, S. Kitagawa, M. Takata, T. C.Kobayashi and M. Suzuki: J. Phys. Chem. B 109, 23378(2005).16)Y. Kubota, M. Takata, R. Kitaura, R. Matsuda, T. C. Kobayashi andS. Kitagawa: J. Nanosci. Nanotechnol. 9, 69(2009).17)R. Matsuda, R. Kitaura, S. Kitagawa, Y. Kubota, R. V. Belosludov,79