ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

久保田佳基図2SPring-8粉末結晶解析ビームラインBL02B2の粉末回折ガス吸着その場測定システム.(In situ powder diffractionmeasurement system of gas adsorption at SPring-8 BL02B2.)(a)システム全体の模式図.(b)プロトタイプの試料ホルダー,(c)改良後の試料ホルダー,(d)ガスハンドリングシステム,(e)ガス・蒸気圧力制御システム(GVPC)を設置したデバイシェラー回折計の写真.造解析の報告が出ている.5)-7)もちろん骨格構造の柔軟性が高くなく,単結晶が崩壊しないPCPに対して単結晶法は有効である.ただし,単結晶法では結晶を固定する際に用いた接着剤が結晶のある面を塞いでしまうことがある.それは細孔の入り口を塞いでしまうことになり,うまくガスが吸着されないことがあるため注意が必要である.また,ex situ測定法では封じ切ったキャピラリの中の圧力をモニターすることが難しい.そのため,われわれはガス圧力と試料温度をモニターし,制御しながら測定可能なin situの方法を考えた.現在では,in situ測定やオペランド測定はかなり普及しており,放射光施設でも実験室レベルでもありふれたものになりつつある.そして,ガス吸着その場測定もその1つの試料環境として物質科学研究の基盤技術となっているが,当時はガス圧力を制御した回折データその場測定の前例はなかった.前述のように大気と試料雰囲気を隔てるため,ガラスキャピラリをガス導入配管に接続する試料ホルダーと,ガスの導入や圧力をモニターし,制御するシステムの製作を行った.8)図2にシステムの模式図や写真を示す.試料ホルダーはごく簡単な作りで,Swagelok社の真空用部品に穴を空けステンレスチューブを銀ロウ付けしたものであった.キャピラリはステンレスチューブにエポキシ系接着剤を使って接着し,真空を保った.接着剤が硬化するのに時間がかかり,漏れがあると接着剤を追加したり,作り直したりでかなり時間もかかった.その後はOリングを使った試料ホルダーを作製して,試料交換も簡単に行えるようになった.一方,吸着ガス圧力は圧力計でモニターしながらレギュレータと複数のバルブを用いて制御した.当時は,飽和吸着状態とdegas状態を対象とした測定が主であったので細かい圧力制御は必要なく,実験には十分な装置であったが,その後,吸着等温線のステップの部分,すなわち吸着過程の観測を思考するようになり,圧力の精密制御が必要となった.そして,ERATO北川統合細孔プロジェクトおよび理研量子秩序研究プロジェクトにおいて,ガス吸着測定用装置を基にしたガス・蒸気圧力制御システム(Gas and VaporPressure Control system:GVPC)が作製され,数Paの低圧部の圧力制御が可能となった.この装置を用いた圧力の精密制御により,後の吸着中間相の観測に成功している.9)3.ガス吸着構造解析単結晶構造解析では直接法という強力な位相決定法が使えるが,粉末法により未知構造を解くことは容易ではない.PCPの場合,多くはAs-synthesizedの状態の結晶構造が単結晶法により解かれている.骨格構造の柔軟性が高くないPCPでは,加熱真空引きによりゲスト分子を取り除いたときに元の構造がおおよそ保たれているので初期構造モデルをたてるときの参考になる.一方,吸着ガス分子については,細孔内のどこにどのような向きで吸着されるかは事前にわからない.先に述べたようにPCPのような物質の場合,解空間にはLocal minimumが多数存在する可能性が高く,必ずしも正しい解に辿り着かない場合がある.したがって,ゲスト分子の置き方を変えたいろいろな構造モデルでRietveld解析を行う試行錯誤的な方法は膨大な労力を要し適さない.一方,MEM/Rietveld法では構造モデルと実際の構造との差分を高分解の電子密度によりイメージングすることにより,吸着ガス分子の位置や配向の情報を得て初期構造モデルを立てることができる.10)この方法ではある程度の成功は収めたが,柔軟な骨格構造をもつPCPでは初期構造モデルの構築は非常に難しくなる.骨格構造を変形しながらガス分子を取り込み,As-synthesizedの状態とは大きく異なった骨格構造になっていることがあ74日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)