ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

日本結晶学会誌59,72-80(2017)総合報告(学会賞受賞論文)放射光粉末結晶構造解析法を用いた多孔性配位高分子のガス吸着現象の構造科学的解明大阪府立大学大学院理学系研究科久保田佳基Yoshiki KUBOTA: Structural Study on the Gas Adsorption Phenomena in PorousCoordination Polymers by Synchrotron Powder Diffraction MethodIn situ synchrotron powder diffraction measurement of gas adsorption and crystal structureanalysis for porous coordination polymers(PCPs)were performed. From the obtained accurate crystalstructure in both atomic and charge density levels, not only the position and orientation of adsorbedgas molecules but also the interaction between the adsorbed gas molecule and host framework werefound. The information enables us to understand the mechanism of gas adsorption phenomena andfunctions of PCPs. It will give us the guiding principles for the novel functional materials design.1,はじめに多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer:PCP)とはナノサイズの規則的な細孔構造をもつ金属錯体のことを言うが,世界的にはMetal-Organic Framework(MOF)という名称のほうがポピュラーかもしれない.この物質群は現代化学において1つの大きな分野を形成しており,大変活発な研究が展開されている.1),2)近年のIUCrにおいてもMOFやOpen Framework Compoundsという名を冠するMicrosymposiaが登場しているので,PCPについて今さら説明する必要はないと思われるが,ごく簡単にその特徴を述べておく.図1にPCPの成り立ちと典型的な骨格構造を示す.PCPは金属イオンに有機分子が配位結合してできている結晶物質である.金属イオンはその価数や電子配置によって結合の数や方向性に特徴をもつ.そして,金属イオンを架橋するさまざまな有機分子を利用可能なことから,これらの組み合わせによってPCPの構造は多様性をもっている.PCPの特徴として,1)規則的な細孔構造,2)大きな細孔表面積,3)高い空隙率,4)軽量,5)細孔表面への機能部位の付与が可能,6)比較的温和な合成条件などが挙げられるが,規則的な細孔構造はPCPが結晶物質であることによっている.このことは後にも述べるが,X線回折による本研究において大変重要である.そして,PCPがゼオライトや活性炭などの従来の多孔性材料とは一線を画する1つの理由は,骨格構造が柔軟性をもつことである.程よい強さの配位結合により骨格構造が大きく変形可能であり,金属イオンを架橋する有機分子自身がもつ構造の自由度も骨格構造の変形に寄与する.PCPがガス分子を認識して骨格構造を変形させながらガス分子を取り込む機構は大変興味深く,また重要と考えられるが,柔軟性が注目されるようになったのは図1多孔性配位高分子の成り立ちと典型的な骨格構造.(Construction of porous coordination polymers and typicalframework structures.)72日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)