ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

日本結晶学会誌59,64-71(2017)総合報告(学会賞受賞論文)放射光X線結晶構造解析による光合成・光化学系IIの水分解・酸素発生機構の解明大阪市立大学複合先端研究機構神谷信夫岡山大学異分野基礎科学研究所沈建仁Nobuo KAMIYA and Jian-Ren SHEN: Elucidation of the Mechanism of the Water-Splitting and Oxygen-Evolving Reaction of Photosystem II in Photosynthesis by X-RayCrystal Structure Analysis Using Synchrotron RadiationPhotosystem II(PSII)is a multi-subunit protein complex embedded in the thylakoid membraneand splits water molecules, producing electrons, protons and molecular oxygen in photosynthesis.We started to purify and crystallize PSII in 1990, which led to the first crystal structure analysis ata resolution of 3.7 A in 2003 using SPring-8. The resolution of the structure was raised to 1.9 A in2011, which was considered a breakthrough in the filed of photosynthesis because, on the basis ofthis atomic resolution structure, it became possible to discuss the molecular mechanism of the watersplittingreaction. We are continuing our studies to obtain much more precise information on theoxygen-evolving complex(OEC)at the S 1 -state of the Kok cycle and to analyze the intermediate statestructures using femtosecond X-ray pulses from XFEL of SACLA.1.はじめに光化学系II(PSII)は,その酸素発生触媒中心であるMn 4Caクラスター(OEC)の上でKokサイクル(図1)に従って水を分解し,酸素分子を発生させている.1)好熱性シアノバクテリアに由来するPSIIは,チラコイド膜を貫通する4種類の主要な疎水性サブユニット(D1,D2,CP47,CP43)と13種類の小分子量サブユニット,チラコイド膜表面に位置する3種類の親水性サブユニット(33 kDa,cyt c-550,12 kDa)が会合した超分子複合体である.またこれらのサブユニット以外に,クロロフィル(Chl)やフェオフィチン,プラストキノン(Q),カロテノイドや脂質など70以上の補欠分子族を含む.D1とD2のサブユニットは,太陽の光エネルギーを吸収して電荷分離する反応中心(図1左のChlダイマー,P680)と,生じた電子の移動経路,非ヘム鉄を挟むA,B両サイトに存在するQ(Q AとQB)など,多数の補欠分子族を取り巻いている.P680が電荷分離して電子が移動した後の反応中心は正電荷を帯びるが,それはOECで水から引き抜かれた電子により速やかに中和される.こうして全体的には,1個の電子が水からQBへ移動することとなるが,PSIIではOECの酸化状態(Si,i=0~4)を順次変えながら,2個の水から合計4個の電子を引き抜き,1個の酸素分子と4個のプロトンを生じる反応が繰り返される.図1右のKokサイクルでは,まず暗順応させたPSIIはS 1と呼ばれる状態にあり,最初にP680が1個の光子を吸収すると,1個の電子を放出してS 2状態へ変わる.P680が次の光子を吸収すると,OECは2個目の電子と1個のプロトンを放出してS 3状態となる.続いて3個目の光子が吸収されると,OECは3個目の電子を放出し,最も酸化状態が高いS 4状態となって2個の水を酸化し酸素を発生させる.さて反応が進行してOECから酸素が放出される過程では2個のプロトンも放出され,OECはS 0状態となる.ここでP680が4個目の光子を吸収すると,OECは4個目の電子と1個のプロトンを放出してS 1状態に戻り,以後はこのサイクルが繰り返される.Kokサイクルモデルはこれまでに集積された膨大な研究成果を包括的に説明するものであり,現在もPSIIの水分解・酸素発生反応を考える際の基本となっている.しかしながらこのモデルでは反応の概要をつかむことはできるものの,OEC,すなわちMn 4Caクラスターの化学構造はどのようなものか,その構造は各S状態でどのように変化する図1 PSIIの概要とKokサイクルモデル.(Schematic drawingof photosystem II monomer and the Kok cycle model.)64日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)