ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

空間群のヒエラルキーと分類と矛盾のない結果となっている.後者は現代の晶系の定義とも矛盾しないので晶系の概念はワイスに遡ると言えるだろう(表5).表5回転操作に基づく分類およびITAによる晶系の比較.3.6格子系最高位数の回転操作ITAによる晶系1三斜2(単独)単斜2(3つ)直方(斜方)4正方3(単独)三方6六方3(3つ)立方格子系(lattice system)は格子の対称性によって定義される.完面像と格子系は一対一対応となる.二次元空間では晶系と格子型は一対一対応するが三次元以上の場合はこの対応は成り立たなくなる._三次元空間では三方晶系(trigonal)は3mおよびその部分群に相当する幾何的結晶類を内包する.しかし,これらの点群タイプは菱形格子にも六方格子にも作用するため,三方晶系は2つの格子型に対応する:菱形(rhombohedral)と六方(hexagonal).文献に数多くの誤りが次々に出てしまうのでここに注意すべき箇所がある.「三方」は晶系を同定するので「三方格子」というものは存在しないが文献によく現れる.同様に,「菱形」は格子型を同定するので「菱形晶系」というものは存在しないが文献によく現れる.このような混乱の原因は結晶学の歴史にある.結晶学は鉱物学から発展し,十九世紀に活発な研究分野になった.この分野で特にフランスとドイツが重大な貢献をしたが前者は格子による分類を重視し,後者は形態による分類を優先した.その分類の結果はそれぞれ現代の「格子系」と「晶系」に相当する.ところが当時両方とも「晶系」と呼ばれていた(仏:systeme cristallin,独:kristallsystem)ので混乱が生じ,その混乱は現在に至る.特に三方と菱形は類語といまだに思う人が多いようである.フランスではtrigonal(三方)という語彙は英語系,rhombohedral(菱形,仏語ではrhombohedrique)という語彙は仏語系と思い,前者を拒否する人が多い.実は前者は古代ギリシャ語の「τρ?γωνον(trig?non三角)」から,後者はラテン語の「rhombus(菱形)」*9から生まれた言葉である.上記の排外主義は結晶学と言語学の両方の無知の証であろう.3.7結晶族結晶族(crystal family)は一番粗い分類である.同じ値*9実はこれの語源も古代ギリシャ語の「?oμβο?(rhombos)」にある.日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)の自由(対称性で制限されない)格子定数および同じ点群が作用する空間群タイプは同一結晶族に属する.例.2つの自由格子定数をもっている空間群タイプは正方晶系,三方晶系および六方晶系で,それぞれの完面_像は4/mmm,3m,6/mmmである.4/mmmは正方晶系の空間群タイプにしか適用できないためこれらの空間群タ_イプは正方結晶族に属する.しかし,3mの対称操作は三方晶系の空間群タイプにも六方晶系の空間群タイプにも適用できるのでこれらの空間群タイプは同一の結晶族に_属する.3mは6/mmmの部分群であるため,この結晶族は六方結晶族という.結晶族において複数の晶系を内包することは意外と思われるかもしれない.二次元空間ではその例はない.三次元空間の場合,六方結晶族は唯一の例である.しかし,空間の次元が上がるにつれてこの結果は一般である.14)すなわち,われわれが最も利用する空間の次元が限られているため例外的な例が普通に見え,逆に普通の状態が例外に見えている.3.8ブラベー群れブラベー群れ(Bravais flock)はおそらく最も馴染みのない概念であろう.本稿では空間群タイプを「モノ(object)」,代数的結晶類を「箱」に例えた.このイメージを拡張するとブラべー群れを「箱の箱」に例えられる.同じ点群タイプと同じ格子型をもつ空間群タイプを同一の「箱」に挿入し,その箱を代数的結晶類と呼ぶ.「箱」のラベルとしてその類に属する共型空間群タイプの記号を取り出し,格子型と点群の記号を逆にする.得られた代数的結晶類の内5個(二次元空間)か14個(三次元空間)がブラべー類である.同じブラべー類に相当する代数的結晶類を同一の「箱の箱」に挿入し,それをブラべー群れと呼ぶ.図5は二次元(ア)と三次元(イ,ウ)のブラベー群れを表示する.ハッチングのものはブラベー群れ,灰色で表示したものは代数的結晶類,である.図5(エ)で_は1つのブラベー群れ(m3 mP)について説明する.・白色で表示したのは空間群タイプである(モノ(object)).太字で示したのは共型空間群タイプである.・灰色で表示したのは代数的結晶類である(箱).記号は共型空間群と同じものであるが区物のため慣用単位胞の記号は最後にくる.太字で示したのはブラべー類である.・ハッチングで表示したのはブラベー群れである(箱の箱).記号はブラべー類と同じ.ブラベー群れはブラべー類と一対一対応のもので,ITA第5版までは空間群タイプのヒエラルキーに明示的に利用されていた概念(図8.2.1.1参照)が第6版(図1.3.4.1参照)にはブラベー類が優先されている.その理由は英語名のflockにあるようである.英語ではflockは普通鳥や哺乳類の群れを意味し,代数的な概念を表すのに不適切59