ブックタイトル日本結晶学会誌Vol59No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol59No2-3

ネスポロマッシモ2.3焦電群焦電体(焦電効果を示す物質)は焦電群(pyroelectricgroups)に結晶化する.焦電群は二次元と三次元空間でそれぞれ2個(1,m)と10個(1,2,3,4,6,m,mm2,3m,4mm,6mm)の点群タイプとそれに相当する4個と68個の空間群タイプである.焦電群に1本以上の極方向(polardirection)が存在するため原点を対称性によって決定できないものである.そのため,構造精密化に当たって1個の原子での自由座標を固定しないと数多くの相関関係(correlation)が現れる.極線の存在によって焦電群はpolar groups(「極群」)という呼称も利用されている.2.4ビーベルバッハ空間群特殊位置のない空間群タイプはビーベルバッハ群(Bieberbach groups)という.一般位置に空間の次元と同じ自由座標をもっているので一般位置しかない群は不動点をもたない群(fixed-point free groups)またはねじれのない群(torsion-free groups)とも呼ばれている.二次元と三次元空間ではそれぞれ2個(p1,pg)と13個(P1,P2 1,Pc,Cc,P2 12 12 1,Pca2 1,Pna2 1,P4 1,P4 3,P3 1,P3 2,P6 1,P6 5)のビーベルバッハ空間群タイプが存在する.2.5キラル空間群,アキラル空間群,ソンケ空間群連載企画ヘルマン・モーガンの記号の解読では,対掌性(chirality)の概念を紹介したが,結晶構造の対掌性のみを解説した.実は,三次元空間群そのものも対掌性の有無で区別できる.結晶構造は原子で形成され,その原子を関連付ける第2種対称操作が存在するか否かによって結晶構造がアキラルかキラルという2つのカテゴリーに分類される.ここで,原子の場合と同様に空間中の対称要素を考えてみよう.その対称要素を関連付ける写像は空間群を超える正規化群の操作である.これらの写像が第2種操作を含有するかによって空間群そのものがアキラル(208タイプ)かキラル(22タイプ,11対)に分類されている.演習問題1キラルな空間群22タイプ(11対)を例示せよ.構造の対掌性と群の対掌性の違いを強調する必要がある.キラル結晶構造は第2種対称操作を含まない空間群タイプに出現する.これらは二次元と三次元空間ではそれぞれ5個と65個であり,ソンケ群(Sohncke groups)という.三次元空間での22個のキラル空間群タイプはもちろんソンケ群であるが,ソンケ群はすべてキラルではない.例えば,P4 2は第1種対称操作しか含まないのでソンケ群の1つではあるがキラル群ではない.なぜならば,左回転と右回転は同じ結果をもたらすからである.演習問題の解答はJ-Stageに付録として掲載してあります.文献でソンケ群をキラル群と呼ぶ誤りが頻繁に見られるので注意すべきである.6)2.6アフィン空間群キラル空間群の対は同じ性質をもち,螺旋操作の回転方向で異なる.例えば,P3 1とP3 2のような空間群タイプは同様な操作で形成されているが3回回転方向で区別できる.その操作を適用するモノ(object)の左右性は逆になるだけであるのでP3 1とP3 2の区別する重要性が乏しくなる.代数学者の視点を採用すれば群を抽象的に考えるのでキラル空間群の各対は1個の空間群タイプとして扱われる.三次元空間での11対のキラル空間群タイプを区別しないなら219個(208アキラル+11キラル対)のアフィン空間群タイプ(affine space-group types)が得られる.2.7共型と非共型空間群空間群は無限個の対称操作で形成されているため無限群(位数が無限)である.一次元(「点」)以外の各幾何的要素を無限個の対称操作が共有し,これらの操作の並進部分で区別する.例えば,a軸に平行な2回回転(あるいは螺旋)操作は以下の行列・ベクトルペアで表現する.? 1?? 0??00100 p ??0 q ?1 r ??p,q,rは媒介変数なので無限の離散的並進を表示する.表2はP222 1(17番)空間群タイプの場合の対称操作とそれに相当する幾何的要素を表示する.*6各幾何的要素で無限の2 2n(nはゼロ以上の整数)操作が共存する.p=0の場合は操作は20(普通は2と省略)という2回回転操作なのに対してp>0の場合は22,24,2 6…などの2回螺旋操作となる.全軸においても定義操作は回転操作なので対称要素はすべて2回回転軸という.一方,C222 1(20番)空間群タイプの場合の(?,?,0)というC格子ベクトルも存在するので対称操作と対応する幾何学的要素は表3のようになる.Cベクトルの存在によって2 2nの操作とともに2 2n+1の操作が共存する.前者の場合はP222 1と同様にp=0だと操作は2(2回回転操作),p>0だと操作は22,24,26…(2回螺旋操作)であるのに対して後者の場合はpの値に関係なく,全操作は螺旋操作(21,23,2 5…)である.したがって,前者の定義操作は2回回転操作(p=0)なのに対して,後者の定義操作は2回螺旋操作(p=?)という結果になる.C222 1の空間群タイプでa軸に平行な回転軸と螺旋軸が共存するがプライオリティの決まりに従って前者がヘルマン・モーガン記号に現れる.b軸に関しては同じ結論になるが回転軸は原点を通らないのでr媒介変数は半整数である(図2).一方,両方の空間群タイプのc軸に平行な操*6対称操作および幾何的要素に関しては,“連載企画ヘルマン・モーガンの記号の解読”で説明した.54日本結晶学会誌第59巻第2・3号(2017)