ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

日本結晶学会誌58,251-260(2016)対称性と群論ヘルマン・モーガン記号の解読ロレーヌ大学結晶学教室ネスポロマッシモMassimo NESPOLO: Deciphering Hermann-Mauguin Symbols結晶学ではヘルマン・モーガン記号(国際記号)は対称操作が形成する群を記述する際に最も一般に使用する記号である.構造解析を行っている研究者の身近なものでありながら意外と理解を損なった項目が多い.本稿では,ヘルマン・モーガン記号の理解を深めるためにその記号の解読道を紹介する.1.対称操作と対称要素操作と要素の相違点を明瞭に理解する必要がある.特に対称操作の定義を明確にしなければならない.1.1対称操作集合論では,写像(mapping)と射(morphism)の概念を区別している.写像は集合Sのi番目の元s iをほかの集合S'のj番目の元s' jに結びつける対応である.s i∈S→s' j∈S'(∈記号は「属する」という意味を指す).一方,射(morphism)は集合構造を保つ写像である.結晶学では特に準同型(homomorphism)という射に注目する.これに関しては今後の記事で説明する予定である.*ユークリード空間1の構造を保つ写像はアフィン写像(affine mapping)といい,線型変換(回転,拡大縮小,剪断)と平行移動の組み合わせでできるものである.Sの集合にアフィン写像を適応すると,点,平行な線,面はS'集合の点,平行な線,面に関連付けられるが,線の長さや角度は必ずしも保護されない.例えば,正方形と長方形との写像はアフィン写像である.アフィン写像とは異なり,線の長さと角度を保存する写像はユークリッド写像(Euclidean mapping)または等長写像(isometry)という.空間中の方位が異なる正方形の写像は等長写像という.ユークリッド写像の場合,SとS'は一致する場合もある(si∈S→sj∈S).さらに,元の方位と等しい場合,その写像は対称操作という(図1).対称操作は位数(order)と種(kind)で区別する.対称操作s iをnn回適用すればその結果はs inと書く.s i=1(恒等操作)となる最小のnは操作の位数という.例日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)図1(上)正方形から長方形へのアフィン写像.頂点,辺の数と角度が保存されるが,線の長さは保存されない.(中)正方形から正方形への等長写像.歪がないが空間中の方向が異なる.(下)正方形の対称操作.頂点に番号を付けなければ操作の結果が見られない.えば,4回回転操作を4回,8回,12回,16回…適用すると恒等操作が得られるが操作の位数は4である.*2対掌性(chirality)をもつモノ(object)にある対称操作を適用するとその左右性(handedness)が保護されるか,逆になるかによって対称操作は第一種と第二種に分類される(図2).xyz座標とx'y'z'座標を結びつける対称操作は,行列とベクトルで表現することができる.? x ? ? x'?? ? ? ?Wy+ w =y'?? z ? ?? ? z ' ??(1)Wは3×3行列で,wは3×1ベクトルである.Wは操作の線型部分(回転か反転)を示すのに対してwは操作*1厳密にいえばアフィン空間だが,その違いはここでは省略する.*2スピノールの場合にはこの説明はなりたたないがスピノールは対象外である.251