ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

新刊紹介「結晶群」共立講座数学探検7巻河野俊丈著(新井仁之・小林俊行・斎藤毅・吉田朋広編)共立出版(2015)定価2,500円+税ISBN 978-4-19-11180-6結晶学者にとっての必携書,International Tablesfor Crystallography VolumeAには,17種類の二次元平面群と230種類の三次元空間群について,空間群記号から,非対称単位,対称操作,消滅則,ワイコフ記号など,さまざまな情報が整理されて記載されているのはご存じのとおりである.私も必要に応じて参照するが,対称性や周期性,さらに物性との関連といった空間群の性質などは,古い時代に確立された数学的にも正しい事実として,何の疑いもなく信じてずっと利用してきた.ところが,5回対称性を有する準結晶がセンセーショナルに見出され(5章),周期的な結晶での回転対称性の位数は2,3,4,6に限られるとの常識を見直すべきようなことが起こると,そもそも空間群などはどのように数学的に導かれたのか,多少なりとも興味がもたれる.そこで,自分の研究にとっては空間群の「ユーザー」で十分なのだが,数学的な背景を少し垣間見るため,適切なこの新刊を手に取ったところ,理解が深まった.数理結晶学に興味のある大学院生の講義・研究(全体)や,表面関係(2,3章)や結晶構造の情報を数学的に整理して活用したい(4,5章)研究者の研究に役立つと思われる.本書の目次は次のとおりである.第1章図形の対称性(1.1対称性の記述,1.2平面の合同変換,1.3合同変換群,1.4図形の対称性を表す群,1.5不連続群と基本領域)第2章平面結晶群(2.1結晶群の概念の定式化,2.21次元の場合,2.3平面結晶群の場合,2.4フリーズ群)第3章結晶群と幾何構造(3.1不連続群の軌道空間,3.2オービフォールド,3.3閉曲面の分類とオイラー数,3.4平面結晶群の分類定理の証明,3.5幾何構造から見た結晶群)第4章空間結晶群(4.1 3次元ユークリッド空間の合同変換群,4.2 3次元局所ユークリッド多様体,4.3空間結晶群と3次元オービフォールド)第5章エピローグ(5.1双曲幾何学,5.2 4次元正多胞体,5.3非周期タイルばり)まず第1章で,さまざまな図形やパターンの対称性を記述する方法について解説している.平面図形の対称性や周期性を表すために,ユークリッド平面で2点間の距離を変えない合同変換からなる,群の概念を導入する.さらに,群の作用,部分群による剰余類などの用語を説明していき,立体図形の対称性を表す群の例として,正多面体群をとりあげている.正六面体の各正方形面の中心を結ぶと正八面体ができるとして双対性を説明している.単位格子(非対称単位)につながる,群の不連続な作用とその基本領域の解説もある.続く第2章では,まず平面結晶群の定義が述べられる.平面結晶群を特徴付ける性質は,2方向の周期性とユークリッド平面への作用の不連続性であるとしている.1次元結晶群,2次元ブラベ格子,そして17通りに分類される平面結晶群の例を列挙している.これは,古くから知られるアラベスク模様のように,2つの方向に周期性をもつ連続模様のパターンの対称性を記述する群とみなせる.さらに,1方向のみの周期性をもつフリーズ群の概念も述べられている.また第3章では,平面結晶群が17通りあることについて幾何構造を用いて説明している.平面結晶群の軌道空間を,局所ユークリッド幾何構造をもつトーラスからの分岐被覆として表す(2次元平面を丸めたドーナツ形立体の表面内にある2点間の最短距離などを考えていく).このような図形はオービフォールド(詳細な説明は長いのでここでは省略)と呼ばれる構造をもつことが,本書の最重要部分で,これを用いて空間群を系統的に扱っていく.第4章では,空間結晶群について解説している.まず3次元ユークリッド空間の合同変換を準備してから,2次元平面結晶群から3次元に拡張して,空間結晶群とする.32通りの空間結晶点群の分類には,球面上の幾何学を用いる.さらに14種類の3次元ブラベ格子について説明し,球詰め込み問題や空間を埋め尽くすような多面体についても紹介している.おわりに第5章では,1982年にシェヒトマンにより液体状態から急冷したAl-Mn合金から位数5の回転対称性を発見された準結晶に関して,トピックス的に紹介している.(東京理科大秋津貴城)284日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)