ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

ステンレス鋼の加工時に生成するナノサイズの結晶相-放射光回折法と電子顕微鏡法による直接観察-Elongation10%20%40%γ(fcc)γ-Twin10nmTwin Boundary{111}StackingA B CA B C A B A B A B A B CA B Cγ(fcc)γ(fcc)γ(fcc)γ(fcc)ε(hcp)γ(fcc)ε→α’(bcc)1nmABABり調べた.特に,放射光X線回折と高分解能TEM観察を相補的に用いることにより,γ→α’変態過程の中間相としてε相がナノサイズで存在していることが明らかとなった.さらに,ローレンツTEM法により磁性相であるα’相は歪量が大きいと考えられる転位や積層欠陥を核生成サイトとして出現していることも見出された.最近では,圧電体での電場印加下における構造変化のその場観察14)や電池材料での充放電サイクル化に伴う15構造変化のその場観察)が行われている.今回,実用鋼SUS304での加工誘起マルテンサイト変態に対して用いた放射光X線回折の引張その場観察は,金属材料や鉄鋼材料などの構造材料の機械的特性の向上に向けた研究に展開できると期待される.謝辞図8態で行われているため,ε相はγ相に逆変態せず,中間相として存在していたからであると考えられる.3.5加工誘起マルテンサイト変態と中間相としてのε相の出現γ→ε変態の幾何学的な格子対応は,fccでABCABC型の{111}面の積層から二原子面ごとのずれでhcpのABAB型からなる積層に移り変わる.図8は,今回の実験結果に基づいたγ→ε→α’の微細構造組織を模式化したものである.伸び10%までは,γ粒内において幅数十nmの微細な変形双晶が形成した.ε相はこれら双晶界面において出現し,20~40%の伸びの上昇とともに増加した.ε相は双晶界面など応力集中の生じやすい界面を核生成サイトとしており,γ→ε変態はγ相の結晶格子が膨張することによる双晶界面での界面エネルギーの増加を抑制する作用も担っていると考えられる.40%以上の伸びではγ/α’二相からなる帯状組織の出現を観察しており,ε相はγ粒内においてγ→α’変態の中間相として作用したものと推察される.4.まとめTwin Boundaryα’(bcc)γ(fcc)α’(bcc)γ(fcc)本研究では,SUS304での室温の実使用条件下で生じるγ→α’変態過程における微細構造組織をローレンツTEM法,高分解能TEM法および放射光X線回折法によ日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)10nmSUS304の室温で生じる加工誘起マルテンサイト(α’)変態の模式図.(Schematic illustration of formationprocess of the strain-inducedα’-martensite phase intensile strained SUS304 at room temperature.)放射光回折実験はSPring-8のBL02B1(課題番号:2012B1611)で行われました.ビームラインスタッフの杉本邦久博士,安田伸広博士に感謝いたします.また,SUS304の相変態について有益なディスカッションをいただきました早稲田大学名誉教授南雲道彦先生に感謝いたします.文献1)ステンレス鋼便覧第3版(ステンレス協会編),日刊工業新聞社,東京, 554(1995).2)田村今男ら:鉄と鋼56, 429(1970).3)H. Fujita and S. Ueda: Acta Met. 20, 759(1972).4)片山哲也,藤田広志:日本金属学会誌52, 8(1988).5)浅利沙代ら:日本金属学会第142回大会概要集, 453(2008).6)並松慶起ら:日本金属学会第144回大会概要集, 457(2009).7)M. Hatano, Y. Kubota, T. Shobu and S. Mori: Phil. Mag. Lett. 96,220(2016).8)J. Talonen and H. Hanninen: Acta Mater. 55, 6108(2007).9)M. Sano, S. Takahashi, A. Watanabe, A. Shiro and T. Shobu: Adv.Mater. Res. 996, 33(2014).10)P. J. Grundy and R. S. Tebble: Adv. Phys. 17, 153(1968).11)渡辺伝次郎,関口隆:固体物理83, 255(1983).12)村上恭和,進藤大輔:日本結晶学会誌47, 89(2005).13)浅香透ら:日本結晶学会誌47, 83(2005).14)S. Aoyagi, et al.: Appl. Phys. Lett. 107, 201905(2015).15)Y. Orikasa, et al.: J. Electrochem. Soc. 160, A3061(2013).プロフィール久保田佳基Yoshiki KUBOTA大阪府立大学大学院理学系研究科物理科学専攻Department of Physical Science, Graduate School ofScience, Osaka Prefecture University〒599-8531大阪府堺市中区学園町1-11-1 Gakuencho, Naka-ku, Sakai, Osaka 599-8531,Japan最終学歴:名古屋大学大学院工学研究科博士後期課程中退,博士(工学)専門分野:精密構造物性,放射光粉末回折法最近のテーマ:多孔性配位高分子のガス吸着構造解析277