ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

久保田佳基,秦野正治,菖蒲敬久,森茂生図6SUS304予歪試料のX線回折プロファイル.(X-raydiffraction profiles of pre-stressed SUS304 specimens.)縦軸は対数目盛り.%は伸びを表している.図5 20%伸び試料における微細組織.(Microstructuresobtained in the 20%elongated specimen.)(a)双晶構造の存在を示す明視野像.矢印は双晶構造(T.B)を示している.(b)(a)の破線で囲まれた領域からの高分解能TEM像.(c)ε相の存在を示す高分解能TEM像((b)の破線で囲まれた領域の拡大像).図7SUS304のX線回折プロファイルの引張その場測定(X-ray . diffraction profiles of SUS304 specimensobtained by in-situ measurement under tensileloading.)縦軸は対数目盛り.%は伸びを表している.れたが,図6からわかるように,予歪を与えた試料ではγ相の回折ピークとともにα’相およびε相の回折ピークが観測されていることがわかる.ε相の回折ピークの強度は伸びの増加に伴い増加し,30%伸びで最大となった.さらに伸びが増加すると,50%伸び試料ではε相の回折ピークは観察されなくなった.この結果はε相からα’相への相変態が30%伸び試料で開始していることを示唆しており,図3bの結果と一致している.次にα’相の生成過程を観測するために,X線回折の引張その場測定を行った.図7に引張その場測定したX線回折プロファイルを示す.無歪試料ではシャープなγ相の回折プロファイルのみが観測され,回折線の半値幅はおよそ0.03°であった.回折線の幅は伸びの増加に伴い増加し,80%伸び試料において0.07°に達した.回折線のピーク位置は伸びの増加に伴い低角度側にシフトし,結晶格子が膨張していることを示している.試料を引張ることによってε相の回折ピークが出現し,その回折強度は伸びの増加に伴い増加した.しかし,その回折強度はγ相の回折強度に比べると非常に小さく,ε相の体積分率はγ相に比べてはるかに小さいことがわかる.そして,ε相の増加とともにα’相の回折ピークも増加しているように見える.これまで室温ではγ相は直接α’相へ相変態し,80 K程度の低温ではε相がその中間相として出現すると考えられてきた.本実験により,室温においてε相はγ→ε変態の中間相として存在していることが初めて明らかとなった.ここでfcc→bcc変態の中間相としてε相が存在しているのは,本測定が引張負荷をかけた状276日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)