ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

ステンレス鋼の加工時に生成するナノサイズの結晶相-放射光回折法と電子顕微鏡法による直接観察-図3bは,引張破断試料と種々の予歪材で測定した加工誘起α’体積率と伸びの関係である.両引張速度の場合とも,α’相は15%伸びまでほとんど出現せず(1%未満),30%伸び以上で生成した.これより,歪速度はα’量の発生に対して影響していないことがわかる.α’量は伸びの増加とともに大きくなり,歪速度1.3×10-3 /sの場合,70%伸びで約23%まで上昇した.3.2ローレンツ電子顕微鏡観察ローレンツTEM法は,高い空間分解能で磁気ドメイン構造を観察できると同時に,温度変化や磁場印加に伴う磁気ドメイン構造の動的変化を比較的容易に観察することができる磁気イメージング法である.また,ローレンツTEM法は,磁気ドメイン構造に加えて,結晶学的構造も同時に観察できるため,磁気ドメイン構造と欠陥構造(積層欠陥や転位など)や双晶構造との関係を調べることが可能である. 10)-13)SUS304内に存在している磁性相であるα’相の存在形態を明らかにするために,破断した試験片に関してローレンツTEM法を用いて磁気的微細構造観察を行った.図4aおよびbにフレネル像およびフーコ像を示す.図4aに示すフレネル像では,磁壁が明暗の線状のコントラストとして観察される.ここで,結晶粒界は破線で示して図4破断試料におけるローレンツTEM像.(LorentzTEMimagesobtainedinfracturedspecimen.)(a)フレネル像.(b)フーコ像.日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)ある.一方,図4bに示すフーコ像ではα’相の領域が明るいコントラストとして観察される.図4aで示すフレネル像では,結晶粒界近傍に線状の明暗のコントラストが観察されることから,α’相が数μm程度の巨視的な大きさで存在していることがわかる.また,結晶粒内においては,α’相のみが存在している領域に加えて,α’相とγ相が共存している領域が観察された.そこで,転位や積層欠陥などの欠陥構造とα’相とγ相の存在形態に関する知見を得るために,フーコ像の観察を行った.図4bは双晶構造および積層欠陥近傍で得られたフーコ像である.図4b中において,明るいコントラストを示している領域が磁性相(α’相)が存在している領域である.図4bからわかるように,α相は矢印で示すように,積層欠陥に沿って直線状に存在している領域に加えて,転位が集中して存在している領域に数十nmの大きさで存在しているのが観察された.一方,転位や積層欠陥が存在していない領域では,α’相は存在せず,γ相のみが存在していることがわかった.このことから,α’相は歪が生じている転位や積層欠陥などの欠陥構造を核生成サイトとして出現していることが示唆される.3.3高分解能電子顕微鏡観察従来の研究によると,fcc→bcc変態に伴い,中間相としてhcp相(ε相)が存在するという報告がなされている.3),4)SUS304の加工誘起変態に伴うfcc→bcc変態過程において,ε相が中間相として存在しているかどうかを明らかにするために,高分解能TEM観察を行った.図5は20%伸び試料において得られた高分解能TEM像である.20%伸び試料では,図3からわかるように,α’相は約2%程度だけ存在しており,fcc→bcc変態の初期段階であると考えられる.そのため,20%伸び試料では中間相としてのε相が存在している可能性が高いと考え,高分解能TEM像を得ることによりε相の有無を調べた.図5aに示すように,20%伸び試料においてγ相(fcc)に由来する双晶構造が多数観察された.そこで,中間相としてhcp相(ε相)が双晶界面近傍で存在しているかどうかを調べた結果,図5bに示すようにγ相による双晶界面の一部でhcp相(ε相)が数nmの大きさで存在していることがわかった.図1からわかるように,ε相はγ相とは<111>方向の積層構造が異なる.図5cに示す双晶界面の領域でABABAB…の順序で原子配列が生じており,ε相であると判断できる.3.4放射光X線回折実験SUS304の加工誘起変態に伴うfcc→bcc変態に伴い,ε相が中間相として存在しているかどうかを明らかにするために,SPring-8において放射光X線回折実験を行った.図6に10%,20%,30%,40%および50%伸び試料において得られたX線回折プロファイルを示す.歪みを与えていない試料では,γ相の回折ピークだけが観測さ275