ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

高電位鉄イオウタンパク質HiPIPの超高分解能結晶構造と電荷密度解析図6鉄イオウクラスター.(Iron-sulfur cluster.)(a)Fe 4S 4型の鉄イオウクラスターの模式図.FE1,FE2,S3,S4から構成されるサブクラスター1(赤色の斜線網掛け)およびFE3,FE4,S1,S2から構成されるサブクラスター2(青色の点の網掛け).括弧内の数字は各原子の電荷.(b)Static deformationマップ.鉄原子,イオウ原子およびシステイン残基のSγ原子近傍の電子密度をそれぞれ赤,黄色および緑色の表面で表示した.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.原子の非共有電子対の方向に向くような構造をとっていた(図5c).3.2鉄イオウクラスターこれまでの分光学的および理論的な研究により,Chromatium vinosum由来の還元型HiPIPにおいては,六面体型のFe 4S 4クラスターは2つのひし形のFe 2S 2サブクラスターに分けられることが示唆されている. 23)それぞれのサブクラスターでは2つの鉄原子は強磁性的に相互作用しており,合成スピン角運動量はS=9/2となっている.また,サブクラスターどうしは反強磁性的に相互作用しており,Fe 4S 4クラスター全体での合成スピン角運動量はS=0である.T. tepidum由来HiPIPは,C. vinosumのものとほぼ同一のアミノ酸配列をもっている.したがって,1つのサブクラスター1はFE1,FE2,S3,S4から,サブクラスター2は,FE3,FE4,S1,S2から構成されることになる(図6a).Fe 4S 4クラスターは,HiPIPの4つのシステイン残基の側鎖のSγ原子に共有結合し,合わせてFe 4S 4(Cys-Sγ)4クラスターを形成している.電荷密度解析の結果,鉄原子の周りには3d電子の密度を,イオウ原子のまわりにも3p電子に対応する電子密度を観測でき,多極子原子モデルによる精密化に取り込むことができた(図6b).結合臨界点における電子密度の大きさρBCPは,結合の強さに密接に関連している.Fe 4S 4(Cys-Sγ)4クラスターの中の16本のFe?S結合をプロットすると,予想どおりに結合距離とρBCPの間に負の相関が見られた.しかしながら,短い結合距離をもつFE1?S2とFE2?S1においては,結合距離から予想される値よりもρBCPが低いことが判明した.このことは,これらの結合においては,結合距離が短いにもかかわらず電子的な相互作用が弱いことを示している.3.3相互作用と電荷電荷についても,それぞれの原子に対して決定するこ日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)図7鉄イオウクラスターとタンパク質の相互作用.(Interactions between the iron-sulfur cluster andprotein environment.)Static deformationマップを表面プロットで表示,水素原子のオミットマップ(3σ)を水色のメッシュとして表示.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.とができたが,鉄原子に関しては+0.9から+1.5,イオウ原子に関しては-1.6から-0.1の値となった.これらの値は,形式電荷よりも小さな絶対値になっている.最も小さな電荷をもっているFE1に配位しているイオウ原子(S2,S3,S4,およびCys43-Sγ)の電荷の合計値(-4.1)は,ほかの鉄原子の場合(-2.7から-2.6)よりも明らかに小さな値となった.このことから,電子はFE1とその周りのイオウ原子に貯蔵されていることが示唆された.電荷密度解析により,Fe 4S 4(Cys-Sγ)4クラスターとタンパク質との間の非共有結合性の相互作用における価電子の役割についても,知見を得ることができた.例えば,S3原子の3p電子がTrp78の側鎖の水素原子の1つと相互作用している様子を実際に電子密度として観察することができた(図7).このような相互作用を各イオウ原子について見ると,イオウ原子の3p電子と相互作用をしている水素原子数とイオウ原子の電荷の値との間に高い相関が存在することが明らかとなった.このことから,Fe 4S 4(Cys-Sγ)4クラスターのイオウ原子とタンパク質の271