ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

竹田一旗,三木邦夫,平野優2.3トポロジー解析電荷密度解析により得られる精密な電子密度の形状をAtoms-in-molecules(AIM)理論に基づいてトポロジー解析することで,分子中の各原子の性質や原子化学結合に関する情報を引き出すことが可能である. 17),18)本研究におけるトポロジー解析には,VMoProプログラムを使用した. 15)図4aは鉄イオウクラスター近傍の勾配ベクトルマップであり,電子密度の勾配ベクトル(∇ρ)をつないだ線を表示している.この線量が0となる面は分子中での原子どうしの境界を規定する.図4bは鉄イオウクラスター近傍のラプラシアンマップ(∇2ρ)であり,電子密度の二次微分をとることで,膨らみや窪みが強調され,電子の局在に関する情報を電子密度そのものよりも鋭敏に検出することが可能である.この図からは,結合の方向に正の値をとる領域が伸びていることが確認できる.トポロジー解析において,結合経路は原子間における電子密度の極大点の連なりとして定義される.一般に,結合経路は直線ではなくわずかに湾曲した曲線である.結合経路に沿った電子密度の極小点は,結合経路に垂直な平面においては電子密度の極大点でもあるために三次元的な鞍点となっており,結合臨界点(Bond criticalpoint:BCP)と呼ばれる.結合臨界点では,∇ρ=0となる.結合臨界点における電子密度(ρBCP)および電子密度のラプラシアン(∇2ρBCP)には,結合の性質が反映される.結合臨界点の位置についても,トポロジー解析により決定することができる.結合臨界点は湾曲した結合経路上にあり,原子間に引かれた直線からわずかに外れている(図4a).結合臨界点は∇2ρBCPの負の領域に位置し(図4b),多くの金属錯体と同じ傾向を示す.また,各原子の電荷は,各原子の領域内の電子密度を積分することで算出される.この電荷計算にはBaderプログラムを使用した. 19)3.解析結果3.1ペプチド結合通常のタンパク質構造解析においては,ペプチド結合の二面角(ω)は平面構造(ω=180°)となるように立体化学的な制限をかけている.一方,タンパク質の超高分解能構造においては,このような平面構造からのずれが観測されている. 20)これまでのHiPIPの構造をみると,1.5 A分解能の構造(PDB-ID:1EYT)ではω角は180°付近に集中しているが,0.8 A分解能の構造(PDB-ID:1IUA)では,すでに平面構造からのずれが観測される(図5a).今回の解析では,外殻電子の影響を排除して原子座標を精密化できたため,平面構造からのずれをこれまでよりも高精度でとらえることができた(図5a).Fe 4S 4クラスターのFe原子と共有結合するCys残基の周辺で,10°程度のずれが多く観測された(図5b).このような平面構造からの歪みのために,ペプチド結合の共鳴構造が部分的に崩れていると考えられる. 21),22)このような平面構造から外れたペプチド結合のアミド水素はC-N-Cα平面から外れた位置に存在し,水素結合のアクセプターである酸素図4電荷密度のトポロジー解析.(Topological analysisof charge density.)(a)鉄イオウクラスター部分の勾配ベクトル(∇ρ)マップ.“+”は結合臨界点(BCP)の位置を表す.(b)ラプラシアン(∇2ρ)マップ.赤色の実線および青点の点線は,正および負の値をもつ等高線を表す.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.図5ペプチド結合のひずみ.(Distortion on peptide bonds.)(a)これまでに解析されたHiPIPの構造における,平面構造からのずれのヒストグラム.(b)平面構造からずれたペプチド結合(赤色).(c)StaticNdeformationマップ(Δρstatic(r)=∑atomj=1[ρMAM(r-rj)-ρISAM(r-rj)])(黄色:+0.1 e/A 3,オレンジ:+0.3 e/A 3)を表面として,水素原子のオミットマップ(3σ)を水色のメッシュとして表示した.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.270日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)