ブックタイトル日本結晶学会誌Vol58No6

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概要

日本結晶学会誌Vol58No6

高電位鉄イオウタンパク質HiPIPの超高分解能結晶構造と電荷密度解析model:MAM)14)を使用した電荷密度解析を行った.この解析では,個々の原子の電子密度ρatomは内殻電子(第1項)によるものと外殻電子(第2項および第3項)によるものとの和である.第3項において球面調和関数を使用して多極子展開することで,非球状の分布が記述される.( ) = ( ) + ( )3atom core val val3+∑l l ( )∑mlm±lm±ρrρr Pκρκr( )κ’Rκ’r P yθ,φここで,ρcoreは内殻電子の電子密度,ρvalは価電子の球状電子密度,κとκ'は電子雲の広がり具合を表す係数,R l(κ'r)はスレーター型の動径関数,y lm±は球面調和関数,P valとP lmは寄与の度合いを表す係数である.今回のMAMによる電荷密度解析では,MoProプログラムを用いた. 15)まず,外殻電子の影響を除くため,1 A分解能より高分解能側のデータのみを用いて座標と温度因子の精密化を行った.その後,低分子を用い決定された多極子パラメータを初期値として導入した. 16)Fe 4S 4(Cys-Sγ)4クラスターの部分には多極子パラメータの初期値は利用できないため,各原子の電荷の決定に重要なパラメータ(P val,κ)についてはグリッドサーチ法により決定した.続いて,シングルコンフォメーションのアミノ酸残基,水分子,Fe 4S 4(Cys-Sγ)4クラスターについてP lm±(l ? 4)の精密化を行った(図3b).次に,それらの原子について座標,温度因子の精密化を行い,最後にP valパラメータの精密化を行った.ISAM解析後には,ペプチド結合や芳香環の結合部分や,Fe 4S 4(Cys-Sγ)4クラスターのFe,S原子周辺に残余電子密度のピークが観測されていたが(図3c),MAM解析の結果それらの残余電子密度は大幅に減少した(図3d).MAM解析後のR work,R freeは7.16%,7.80%となりISAM解析より約1%低下した(表2).表2結晶学的データおよび精密化の統計値.(Crystallographicdata and refinement statistics.)Reduced HiPIPCrystallographic dataSpace groupP2 12 12 1a, b, c(A)46.48,58.91,23.44Resolution(A)20-0.48(0.50-0.48)Rsym(%)5.6(33.9)<I>/<σ(I)>61.1(2.7)Completeness(%)96.3(89.0)Redundancy5.4(3.0)RefinementResolution(A)20-0.48No. reflections301,119R work/R free(%)(ISAM)8.24/8.63R work/R free(%)(MAM)7.16/7.80No. of non-H atoms1113No. of H atoms890Data to parameter ratio(MAM)21.9図3超高分解能データの精密化手順.(Refinementprocedureofultra-highresolutiondata.)(a)解析のフローチャート.(b)多極子精密化を行った原子を赤色のスティックモデルで示している.(c)ISAM精密化終了後の残余電子密度.(d)MAM精密化終了後の残余電子密度.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.日本結晶学会誌第58巻第6号(2016)269